『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす

山の上エリアにあるバンジージャンプ台。
緑色の鉄骨タワーを安全装具を着けた副社長が楽しそうに上がってゆく。
時折、私の方に視線を向けながら手を振って、隣りを歩く見知らぬバンジー挑戦者と楽しそうに会話している。

彼は昔から太陽のような人だ。
周りをパッと明るくするというか、彼の傍にいると不思議と楽しくなるというか。
大学時代もそうだ。
彼の周りにはいつだって人が集まっていて、みんな彼のことが好きだった。

仕事でもそうだ。
取引先でも社内でも、彼の人柄はかなり好印象で、女性だけでなく男性社員にも好かれている。
納涼祭の時もそうだったけど、彼の社員への愛情は決して形だけではない。
常に社員を労わって、すぐさま行動に移すのが凄くカッコイイと思える。

ジャンプ台の頂上まで登った彼。
大きく手を振っている。
そんな彼に応えるように、下から手を振って合図を送る。

スタッフによるカウントアナウンスが。

「三……二……一……バンジー」

両手を広げて、飛び降りた彼。
見ているこっちがドキドキしてしまう。

何バウンドかしながら下にあるエアークッションの上に下りた。
数分して安全装具を外した彼が私の元にやって来た。

「芽依っ、マジで超楽しかった!」
「凄かったです!!」

“芽依”……今日初めて呼ばれた。
当然名前は知っているだろうけど、普段は苗字で呼ばれているからちょっと照れる。

「ヨシ、次はジップ行くぞ!」
「あ、はいっ」

勢いよく掴まれた手。
今日何度目か分からない胸の高鳴りがした。

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