『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
*
十二月上旬。
取引先との会食を終え、直帰で自宅へと向かう車内。
「今週の土日、どっちがいい?」
「………」
「言わないと俺が決めるぞ」
「………その、……副社長」
芽依の視線が運転手の井上に向けられている。
プライベートの会話を車内でしたくないという事か。
俺はプライベート用のスマホを立ち上げた。
このスマホの番号を知っているのは、仲のいい友人と芽依と父親くらいだ。
そのスマホで隣りに座る彼女にメッセージを送る。
『都合のいい日はどっち?』
『どちらでもいいですが、……やはり、デートですか?』
『勿論。では、土曜日の九時半に迎えに行く』
『分かりました』
彼女が小さく溜息を吐いたのを捉え、ほんの少し胸の奥が痛む。
俺は飛び跳ねるほど嬉しいけれど、彼女にしたら苦痛でしかないのかもしれない。
*
俺をマンションのエントランスに降ろし、彼女を乗せた車がその場を後にした。
「さてと、久しぶりに行くか」
一旦自宅へと戻り、車の鍵を手にして地下駐車場へと。
愛車に乗り込んだ俺は、とある場所へと向かった。
自宅マンションから車でおよそ十分の距離にある実家。
大きな門構えの奥に純和風の家が建っている。
二か月ぶりに敷居を跨いだ俺は、何一つ変わっていない家の中をゆっくりと父親の元へと。
予め家に行くことを伝えておいたこともあり、父親は居間で仕事をしていた。
「珍しいな、お前から連絡を寄こすとは」
「折り入って話したい事がありまして」
「まぁ、座りなさい」
父親と向かいい合う形で腰を下ろす。
数日前に俺が決裁した稟議書に目を通しているようだ。