『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす



十二月上旬。
取引先との会食を終え、直帰で自宅へと向かう車内。

「今週の土日、どっちがいい?」
「………」
「言わないと俺が決めるぞ」
「………その、……副社長」

芽依の視線が運転手の井上に向けられている。
プライベートの会話を車内でしたくないという事か。

俺はプライベート用のスマホを立ち上げた。
このスマホの番号を知っているのは、仲のいい友人と芽依と父親くらいだ。
そのスマホで隣りに座る彼女にメッセージを送る。

『都合のいい日はどっち?』
『どちらでもいいですが、……やはり、デートですか?』
『勿論。では、土曜日の九時半に迎えに行く』
『分かりました』

彼女が小さく溜息を吐いたのを捉え、ほんの少し胸の奥が痛む。
俺は飛び跳ねるほど嬉しいけれど、彼女にしたら苦痛でしかないのかもしれない。



俺をマンションのエントランスに降ろし、彼女を乗せた車がその場を後にした。

「さてと、久しぶりに行くか」

一旦自宅へと戻り、車の鍵を手にして地下駐車場へと。
愛車に乗り込んだ俺は、とある場所へと向かった。

自宅マンションから車でおよそ十分の距離にある実家。
大きな門構えの奥に純和風の家が建っている。

二か月ぶりに敷居を跨いだ俺は、何一つ変わっていない家の中をゆっくりと父親の元へと。
予め家に行くことを伝えておいたこともあり、父親は居間で仕事をしていた。

「珍しいな、お前から連絡を寄こすとは」
「折り入って話したい事がありまして」
「まぁ、座りなさい」

父親と向かいい合う形で腰を下ろす。
数日前に俺が決裁した稟議書に目を通しているようだ。

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