『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
「夕飯は食べたのか?」
「はい、先程、小山内医療機器の専務と会食を」
「そうか」
眼鏡を外し、それを座卓に置いた父親は煎茶を口にする。
「話とは?」
「結婚したい女性がいます」
「……唐突だな」
「すみません」
「相手のご両親の許可は得たのか?」
「いえ、これからです」
「……そうか」
柚子饅頭を和菓子切で切り、それを口に運ぶ父親。
その所作を無言で見つめる。
懐紙で口元を拭き、視線を俺へとゆっくり持ち上げた。
「キサラギ製薬の娘か?」
「っ?!……どうしてそれを?」
「私が何も知らないとでも?」
「………」
「もう七年?いや八年か?調査会社をあの娘に付けてるだろ」
「………」
なるほど。
その線でバレてたのか。
「はい、彼女は私が初めて好きになった女性です」
「今まで散々遊び尽くして来たお前が、ここ数か月派手な遊びをしなくなったと思えば……こういうことだったのか」
「何でもご存知なのですね」
「当たり前だ」
「反対ですか?」
「結婚にか?」
「はい」
「いや、反対はしないが、……あちらの許可が下りるとは思えんな」
「承知してます」
「何か手立てを考えてるのか?」
「まぁ、それなりに」
「せいぜい頑張るんだな」
「では、如月家が認めて下さったら、結婚していいということで宜しいのですね?」
「反対はせぬ。お前が幸せになるのなら家柄など気にはしない」
「ありがとうございますっ!」
「但し、条件がある」
「ッ?!……どのような条件でしょうか?」
「どんな状況下でも、赤字決算は許さん。多くの従業員を背負っている立場を弁えろ」
「分かりました」