『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
車が停車した先は、平屋建ての少し大きめな一軒家。
彼に連れられ、趣のある門構えをくぐった先にあったのは……。
「ここ、俺が学生時代からお世話になってる窯元なんだよね」
「窯元?……陶芸ですか?」
「うん、やったことある?」
「いえ、無いです」
「よかったぁ。じゃあ、今日は体験入学ってことで」
陶芸が趣味だなんて、初耳だ。
彼の色んなデータを集めているはずなのに、私が知らないことがあっただなんて。
「師匠~っ!」
「おっ、響、来たのか」
「あ、はい。今日、いいですか?」
「勿論いいぞ~って、そちらの女性は?」
「あ、紹介しますね。俺の秘書でもあり、現在目下口説き中の相手で、如月 芽依さん」
「っ……、初めまして、如月 芽依と申します。突然お邪魔致しまして、申し訳ありません」
「そんな畏まらなくていいよ。昼過ぎから生徒さんが何人か来るけど、それまでなら好きに使っていいから。響、ここら辺の土は生徒向けだから、使うなら向こうの棚にある前業(練り)終わってるやつを使え。そうか、響に靡かない女性がいるとはな……う~ん、興味深いな」
「響さんの仰ることは冗談ですので……」
「ハハハッ、……午後の準備をしなければならないから、後は響に教わって?こいつ、結構腕がいいから」
「そうなんですか?」
「自宅に沢山無いかな?……あれ、全部こいつの作品だから」
「え?えぇぇぇ~~っ?!」
そう言えば、ご自宅の食器戸棚に風情のあるお皿や湯呑とか箸置きとか沢山ある。
焼き物が好きなのかな?とか思っていたけれど、出張で出向いた際に購入したことは一度も見てない。