『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす

直ぐに成形できるように彼が土を練って中の空気を抜いてくれた。
そして、ろくろの使い方を教わり、ぎこちない手で土に指を添わせる。

「おっ、上手い上手い!その調子」
「目が回りますねっ」
「慣れるまでね」
「足の動きと手の動きのバランスを考えながら意識を集中させるのって、物凄く難しいですね」
「ピアノとかドラムとかも一緒でしょ。陶芸もさ、体内でリズム刻むようなものだよ」
「あぁ、なるほど」
「後はさ、イメージも大事。土を愛おしく思いながら、使う時の幸せなひとときを思い浮かべるといいよ。誰かにプレゼントするなら、相手の顔を思い浮かべたりね。無心でするのもアリだけど、やっぱり心を込めた方が味わい出て来るから」
「……なるほど」

背後から優しく手を添え、フォローしてくれる彼。
背中に伝わる彼の感触に眩暈がしそうだ。
触れる指先から暴れる鼓動が伝わってしまいそうで怖い。

「ゆっくりでいいから、集中して」
「っ……」

そんな甘い声音を耳元に落とさないで。
余計に緊張して、体が強張ってしまう。

落ち着け~落ち着くのよ~。
大丈夫、気付かれない。
クールフェイスよ!!

顔にかかる髪を振り払おうと、ほんの少し顔を振った、その時。
ろくろの足下を確認しようとした彼の顔がぐっと近づき、私の唇が彼の頬に僅かに触れた。

「ッ?!!」
「………今のは工賃みたいなもの?」
「っ……そういうことにして下さいっ」

穴があったら入りたい。
顔を横にも向けられない。
完全に紅潮してるもの、今。

彼は至っていつも通り。
驚く素振りも感じない。
頬に触れるだけのキスだなんて、蚊に刺されたようなものだろうしね。

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