『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
「手先が器用だから、初めてでも結構形になったね」
「そ、そうですか?」
「ん、十分だよ」
「………響さんのは、風合いがだいぶ違いますね」
「あぁ、これは手びねりって言ってね、手で押し伸ばす成形の仕方なんだけど、結構この手びねりで作ったのが好きなんだよね」
「そう言われてみれば、ご自宅にある器は似たようなものが多いですよね」
「そそ、俺の作品だからね」
豆皿より少し大き目なお皿のようなものを幾つか仕上げた彼。
私が作ったものと一緒に空いている棚に移し並べた。
「ちょっと師匠に声掛けて来るね」
「あ、はい」
道具の返し場所が分からず、出来るものだけ片付けをしていると、彼が戻って来た。
「片付けしようか」
「はい」
約二時間半ほどの陶芸体験。
日頃使わない筋肉を使ったからか、足の付け根や足全体、肩から背中にかけて疲労感が結構ある。
「疲れたでしょ」
「……意外と」
「フフッ、地味な作業だけど、結構全身運動なんだよね。前業っていう土を練る作業なんて、もっとあちこち痛くなるから」
「そうなんですか?」
「どう?楽しかった?」
「はいっ!初めてでしたが、童心に帰ったというか…」
「でしょ。結構ハマるよ」
「分かります」
昼食中の先生にご挨拶をして、私達は窯元を後にした。
「さて、お昼ご飯だけど、何食べたい?」
「何でも今なら美味しく頂けそうです」
「フフッ、だよな。近くに美味しいお蕎麦屋さんがあるから、そこでもいい?」
「はい、もちろん」
車に乗り込んで、結構穴場だという臼挽きのお蕎麦屋さんへと向かった。