『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
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「お口に合いますか?」
「マジで旨いっ!」
「……良かったです」
美味しそうに食べる彼を見つめ、無意識に頬が緩みそうになる。
「家賃浮くし、ここに住まないか?」
「うっ……、なっ…何を急に……」
「急にじゃなくて、先月から言ってるだろ。俺の女になれって。ってか、俺、結婚する気満々だけど?」
「っ……、ご冗談は寝てから仰って下さいっ」
「本気だって、何度言えば分かるんだよ」
フォークを置き、テーブルに頬杖をついた彼が視線を向けて来る。
「明日、ご両親に会いに行きたい」
「………」
「明日がダメなら、来週でもいいから。ご都合のいい日を聞いといて」
「………」
「聞いてんのか?」
語気が少し強まった。
苛ついてはいないだろうが、きちんと態度で返事をしないと気分を害してしまいそうだ。
「挨拶というのは、どういった内容の……?」
「勿論、結婚の許可を貰いに」
「っ……、そもそも、私と副社っ……響さんはそういった関係ではないですよね?」
「だからだよ。縁談って、そういうものだろ。挨拶して、許可を得て、その先に結婚があるものじゃないのか?」
「………それはそうかもしれませんが、お互いの同意の下が大前提かと……」
「俺じゃ不服なのか?」
「っ……」
「それなら、俺ではダメだという所を挙げてくれ。直すから」
「………直すと言われても……」
ダメな所なんてあるわけない。
それどころか、全てにおいて満点なのに。
「強いて言うなら……」
「……強いて言うなら?」
「その顔、……ですかね?」
「は?……え、何……この顔が好みのタイプじゃないって事?!」