うた×バト〜思いは歌声にのせて〜
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 【金井流歌WIN】

 三回目のその表示を見て、安心すると共に嬉しさが沸き上がる。

 順調に勝ち進んだ私。
 これで明日の準決勝は出場決定だ。

 負けてうなだれてしまった相手の子には悪いなって思うけれど、バトルで同情するのは失礼だ。
 お互い本気で頑張った結果なんだって、健闘をたたえ合うのがマナー。
 それが、相手を尊重する事にもなる。

『悔しいな……少なくとも歌唱力で負けてるとは思わないのに』
『……うん』

 その部分だけで言えば同等か、相手の方がちょっと上くらいだと思う。

『でも認めるしかないよね。金井さん、感情を乗せるの上手いし』
『あ、ありがとう』

 こんなふうにちゃんと私の力量を分析してくれた子はいなかったから、ちょっと新鮮な気分。
 照れながらお礼を言った私は、続いた言葉に軽く衝撃を受けた。

『それに“うたアニ”の読み取り力が大人並みなんだもん。かなり“うたアニ”に歌って聞かせてたんでしょ? すごいよ』
『あ……』

 たくさん“うたアニ”に歌って聞かせてたのは、主に去年の小学六年生の頃。
 人前で歌えなかったから、その頃はひたすらラブちゃんに聞かせてた。
 楽しいこと、嬉しいこと、それに悔しさも悲しさも全部ラブちゃんに歌で伝えてた。

 そっか、あの頃の時間も無駄じゃなかったんだ。
 そう思うと、あの頃の私がちょっとだけ救われた気がした。

『ありがとう』

 私は色んな意味を込めて、敗者である彼女にお礼を伝えた。
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