その涙が、やさしい雨に変わるまで
 さりげなくグラスをビール瓶から遠ざける。もうすぐ帰るのに、飲んでは危険だ。
 写真のことを褒めてくれて悪い気はしないが、これは酔っぱらいの言葉である。ここは話半分にきいておくほうがいい。
 完全に素面ではないが、それなりに素面の思考に戻っている三琴である。

「そんなことないよ~、私に比べたら全然、オッケー」
 ビールこそは注ぎそこなったが、モデルスカウトを簡単にあきらめたりする春奈ではない。この写真も会心の出来なんだからと、残りのフォトもみるようにいう。

 大判プリント以外にもスナップショットがあり、ガゼボ以外の場所での三琴が写っていた。
 一枚一枚、確かめていく。
 昼食の弁当を配る三琴、手に箸を持ったまま呼ばれて振り返る三琴、バラ園の散策路で足を止めてバラに見入る三琴……覚えのあるものがあれば、そうでないものもある。本当に「いつの間に!」である。

「そうそう、俺も全然、オッケーだと思うよ。これ、いいねぇ~」
 三琴が確認し終わった写真は春奈の手を経由して、メンバーの間に広がっていく。
「お、これもカワイイじゃん!」
「僕はこっちが好みだな。春奈さんはこういう構図でいくんだ。僕が松田さんを撮るなら……」
 ふむふむと、メンバーらの間で鑑賞会兼討論会がはじまっていた。本人を目の前にして言いたい放題、お構いなしである。

「どよ? 松田さん! 皆ああいっているし、思い切ってやってみない、モデル?」
「俺、松田さんがシカゴで待っているんだったら、スケジュール調整して撮りにいくよ」
「おい! 抜け駆けはズルいぞ! 僕だって、松田さん、撮りた~い!」
 春奈の提案を後押しするかのように、メンバーもモデルリクルートする。ワイのワイのと、すっかり三琴がメンバーの専属モデルになったつもりで希望を語る。

(ノリがいいのはわかっていたけど、お酒が入るとますますヒートアップするなぁ)

「こらこら、君たち、勝手に決めつけない」
 奇妙な盛り上がりにストップをかけたのは、少し離れたところで別メンバーと話し込んでいた脩也だった。
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