その涙が、やさしい雨に変わるまで
 彼はスマートウォッチを確認し、
「松田ちゃん、時間、大丈夫?」
と、三琴に退場のきっかけを作ったのだった。


 ***


 春奈をはじめとする面々を店に残し、三琴は脩也に付き添われてタクシー乗り場に向かう。脩也に連れ出されるような形で、三琴は店を出た。

「ありがとうございます。どうやってお暇乞いしようかと思ってました」
「いやいや、あいつら図々しくてごめんね」
「いえ、お酒の席ですから。こちらこそ、打ち上げに誘ってもらって楽しかったです」

 数週間前にもこうやって脩也と歩いた。あのときは今みたいな楽しい宴のあとではなくて、瑞樹とのことを白状して大泣きをしたあとであった。
 でも今日は、そんな悲しい路上ではない。美味しく食べて、わいわい騒いで、必要以上に羽目を外さない。節度ある素敵な飲み会だったと三琴は思う。

「そう? よかった。まぁ、撮影会のときもそうだったけど、今晩の「飲み」ではっきりしたよ」
「?」
 今晩の「飲み」ではっきりしたよ――何が、だろう? 脩也のこのいい方、意味不明でかつ不思議な感じがする。
 また臨時アルバイトに誘ってくれるのだろうか? もしそうなら、今度は彩也子のことを相談してみよう。そんなことをぼんやりと三琴が想像したときだった。

「ところで松田ちゃん、転職は決まった?」
 ほろ酔い気分のふんわりとしたところに、一度に現実に戻される質問がやってきた。
「いえ、まだです」
 しぶしぶ、三琴は答える。
「転職サイトを覗いたりとか、した?」
「いえ、それも、まだです。……すみません、早く動いた方がいいと思っているんですが、勤めているうちは気分的に後ろめたいというか、決心がつかないというか……」
 しどろもどろに三琴は言い訳をする。

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