その涙が、やさしい雨に変わるまで
 ホテルエントランス前で少し佇む。あらためて今までのことを振り返る。
 瑞樹が転落事故に遭ったときいて見舞いにいけば、恋人であることだけでなく秘書であることも忘れられていた。受付嬢となって彼から呼び出しされたときは、脩也のことを警告されて、業務態度を非難される。どれも不意打ちのことだった。
 不測の事態を事前に備えておくなんてこと、三琴にはできなかったし、結果ただおろおろして終わった。

 でも今回は違う。多少、目的が変わってしまったが、もう瑞樹から予想外のことを告げられることはもうないはず。
 最後の別れをここでもう一度する、本当にする。不測の事態に動揺しない。
 今度こそ自分が主導権を握るのだ、次のステップに向かうためにけじめ(・・・)をつけるのだ。
 そう気持ちを引き締めて、三琴は待ち合わせのグランドフロアに足を踏み入れた。

(一年……半ぶり、かな?)

 グランドフロアの高い吹き抜けを見上げて、三琴は思う。
 ふわりと空調が自然に下ろした三琴の髪を揺らす。フレアワンピースの裾も、同じように揺れる。
 グランドフロアは蒸し暑い空気だけでなく外の喧噪もシャットアウトし、ひどく快適で別世界であった。
 梅雨時の今、フロアのメイン装飾は紫陽花を使ったもの。色とりどりの紫陽花がスレンダーな花器にボール状に生けられている。まるでひな祭りのぼんぼりのよう。それがたくさんのフォーカルポイントに置かれていて、和花だけどポップな雰囲気を醸し出していた。
 
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