その涙が、やさしい雨に変わるまで
 瑞樹と初めてのデートを約束してから毎日、三琴は悩んた。どんな些細なことでも、これでいいのだろうかと疑問ばかりが現れる。
 デート前夜は緊張して眠れず、当日の朝も服や化粧が気になってしまう。あんなに考え抜いたコーディネートであってもだ。
 秘書業務では絶対に着ないワンピースを着て、同じく足元も絶対に履かないフラットシューズを履いて、三琴は家を出た。そんなこんなで結局デルリーン到着が、時間ギリギリになってしまったのを覚えている。
 
 そして日曜日の今日。戸惑う気持ちは、はじめてのデートのときと変わりない。悩みの種は違ってはいるのだが。
 瑞樹に許された時間は、一時間。デルリーンという場所とこの時刻から、きっと自分との対話のあとに美沙希との結婚準備云々が入っていると思われた。
 そうでなくとも、前回の業務終了後のヒアリングの二の舞にならぬよう、用が済めばさっさと消えると三琴は決める。

(そう、瑞樹さんに会えるのは、これが最後。その場所がはじめてのデートと同じところだなんて、皮肉な運命ってところかしら?)
(でも、今日の目的は菱刈さんの0号案件を手渡すこと!)
(それが終われば、迷わず帰る!)

 雨に降られることなく、三琴は約束の十分前にデルリーン・リッツ&コートヤードに着いた。

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