その涙が、やさしい雨に変わるまで
 普段の脩也はニューヨークでずっと写真家活動をおこなっていて、帰国は一年に一度あるかどうか。その貴重な脩也の帰国は、つい半日前のこと。
 日本に入国するやいなや脩也は社にやってきて、彩也子と「瑞樹に会わせろ」「できません」の受付カウンター騒動となったのである。

「ありがとね。仲間でお祝いしてもらうのも嬉しいけれど、家族に祝ってもらうのは格別だね」
 川エビの素揚げをむしゃむしゃと食べながら、脩也はご機嫌でいう。

 家族に祝ってもらうのは格別だね――この脩也のセリフに、つくんと三琴は胸が痛む。

 このグループ展のことを教えてもらったときは三琴と瑞樹は恋人同士だった。この段階では会長夫妻へ挨拶にいく話は出ていない。なんと両親より先に、普段日本にいない兄のほうへ、三琴は紹介されていた。
 このとき結婚のことは未定だけど、脩也からは「俺に妹ができたんだ」と気の早い話をしてもらえた。
 さらに瑞樹から、三琴は脩也とのコンタクトを許された。

 脩也とのコンタクトを許される――実は、この脩也、会長夫妻から勘当されているのだ。脩也も脩也で、実家である会長宅へ帰国しても連絡を入れることはない。

 表向きでは、脩也はグループ会社の海外事業部の現地拠点に出向しているということになっている。社員は皆、それを信じているし、三琴だってそう思っていた。

 だが、瑞樹と付き合うようになって、それは噓だと告白された。脩也はフォトグラファーの夢が捨てられず、親と大喧嘩した末に海外へいってしまったのだと。世間体を気にして、親は長男のことを海外赴任ということにしているのだとも知らされた。
 
 瑞樹と付き合うことで創業者一族の秘密を三琴は知ることになったのだが、同時に瑞樹からこうもお願いされた。

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