その涙が、やさしい雨に変わるまで
――雨天決行だから、雨具の用意をしていてね。
――え? 雨でも撮影するのですか?
――雨の日にはまた違った表情をみせるからね。基本、俺らに天候は関係ない。ま、こんな感じだけど、考えておいて。嫌なら前日夜までにキャンセルしてくれてもいいから。
――はい、わかりました。あ! 連絡先……

 秘書用のスマートフォンはもう本多のものだから、三琴の手元にはない。個人保護法のこともあり、三琴は秘書用のスマートフォンの中にある脩也の電話番号を控えることはしなかった。

――じゃあ、あらためて、これ。

 脩也は素早く内ポケットから名刺を取り出して、三琴に渡す。三琴が受け取れば、さっさとタクシーの扉を閉めたのだった。

 そのまま三琴はタクシーで自宅まで戻ったのだが、帰宅すれば帰宅したで、「アルバイトどうしよう?」と頭はそのことでいっぱいになる。
 プロのカメラマンの勉強会に、ずぶの素人が、雑用係としてだけど、交ざっていいものなのだろうか?
 それに、雨が降っても撮影会は中止にはしないというし。

(雨でも中止にしないところをみると、皆さん、忙しい中を搔い潜って勉強しているんだ)
(バイト代はなしっていっていたから、みんな自腹なんだろう)
(私も、弁当代も入園料もなくてもいいんだけど……)

 ふと気がつくと、三琴は初対面の人間の中に飛び込んでいく自分の姿を想像していた。
 このことに、いままで瑞樹一色だった思考から自由になっていた自分にも気がついた。

(あ、そうか!)
(気分転換って、こういうことだ)
(じゃあ……いってみようかな?)

pagetop