その涙が、やさしい雨に変わるまで

 移動すること、約二時間。
 そういうつもりではなかったが、高速道路の景色が単調なものになってしまえば、睡魔が三琴を襲う。いつも間にか、三琴も眠りに落ちていた。

 ふと三琴が目を覚ませば、周りが緑に覆われていた。
 人工的なコンクリートの建造物が消えて、道路わきの木々のすき間からときどき田んぼがみえる。東京から二時間でこんなにも風景が変わるのだと、なんだか感心してしまう。
 順調に高速道路は流れて、予定通りにワゴン車はバラ園についた。開園前のバラ園入口で、新たにふたりのメンバーと合流した。

「松田ちゃん、こちら、東野池(とうのいけ) 裕介(ゆうすけ)春奈(はるな)夫妻。春奈さんがカメラマンで、裕介がその助手だ」
 東野池夫婦は脩也と同世代カップルで、三琴より五つ六つ年上というところだ。

「脩也さん、そのお笑いコンビみたいな紹介、やめてもらえますか?」
と、さっそく春奈が脩也に突っ込みを入れる。
「噓はいっていない」
と、とぼける脩也。
「まぁ、そうだけど……どうも、その紹介の仕方、いい感じがしないのよねぇ~」
 脩也と春奈は、常にこんな感じなのだろう。残りのメンバーはふたりのことを微笑ましく傍観している。

 今日のメンバー全員が自己紹介を済ませたら、裕介がネームプレートを配りだした。三琴だけでなく裕介もこういったロケ撮影に参加するのは久しぶりのことで、初顔さんが多いからと自作してきたのだった。

「あの、裕介さんは助手ということですけど、アシスタント・カメラマンということですか?」
 今日のロケ撮影会はフォトグラファーの自主勉ときいていたので、謎に思って三琴は裕介に尋ねた。

「いえ、僕は画像処理と装飾をしていまして、写真は撮りません。今回、脩也さんからお声をかけてもらって、久しぶりに現場にくることになったのです。アシスタントというのは、名目なんですよ」
と、裕介はいう。三琴以外にも部外者がいた。
 それでネームプレートを用意していたのだと,、三琴は納得する。妻のほうはメンバーと顔なじみでも、夫にとっては初対面の人たちばかりだったのだ。

「それで、松田さんは?」
 ここはちょっとドキッとする。もらったネームプレートの記載には、松田とだけしかない。
 アルバイト参加表明のメッセージやり取りで、脩也と考えた設定を三琴は口にした。

「私、いま就活中で、業界研究になればと脩也さんが呼んでくれたんです」

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