その涙が、やさしい雨に変わるまで
 初対面から人懐っこいキャラであったが、結婚のいきさつをきけば人懐っこいだけでなく強気の姿勢もある春奈であった。自分と正反対なキャラクターだなと、三琴は思う。
 春奈の押しは強いけれど不快にきこえないのは、裕介と春奈の間で意思疎通ができていて、裕介本人が嫌がっていないからなのだろう。「できるほう」が「できないほう」に合わせたという感じだ。性別とは関係なしに。

 入園直後のまめまめしい裕介の姿を思い出せば、脩也が春奈に向ってからかい(・・・・)を入れるのも無理はない。三人は付き合いも長いようでもあるし、いいチームワークだなと思う。

「今日は、松田さんが業界研究しているということで私の場合を教えたのだけど……ま、そこは人ぞれぞれだから。身軽さを優先して独身の人もいるし、入籍でなくパートナーシップ登録をしている人もいるし」

 フォトグラファーのいまどきの結婚実態を春奈は口にする。春奈は脩也がでっち上げた三琴のキャラ設定を信じて、女性の場合の業界事情を親切に教えてくれたのだった。
 ちょっと騙していることに三琴は良心がチクリとするが、そこは馬鹿正直に申告する必要はないだろう。今日一日のことだし。

「松田さんは、いままでどんなお仕事をしていたの?」
 春奈のフォトグラファーの舞台裏話が終わって、今度は三琴の就活へ話が飛ぶ。

「一般事務です」
「そっかぁ。旅行とかは、好き?」
「ちょっと休みの取りにくい部署だったので、縁がなかったです。だから、どうともいえないかな?」
「ありゃりゃ~、松田さん、ブラックなところに勤めていたのね」

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