その涙が、やさしい雨に変わるまで
 依然、春奈の調子は変わらない。むしろ、きいてといわんばかりに先を続けていく。
「結婚したらさぁ~、仕事柄どうしても女の私が家を空けて、男の裕介が留守番になるのよね。世間一般の常識とは逆じゃない。これが向こうのご両親に理解されなくてねぇ~。一度は諦めようかなと思ったのよ」
と、自分の結婚苦労話を初対面の三琴へ、春奈は曝露していく。

(そうか、被写体を何にするかで、撮影場所が変わってくるわよね)
(ファッション誌と旅行誌では、ロケ先が全然違うもの)
(現に脩也さんは建築写真がメインで、交通の便がいいっていう理由でニューヨーク在住じゃなかったかしら?)

 春奈の常に家にいないというセリフから、瑞樹から紹介されたときに脩也も同じようなことをいっていたのを三琴は思い出した。

「でも結婚されているから、最終的にはご了承いただけたんですよね?」
「うーん、ちょっと違うかな?」
 あれ? と思いながらも、三琴は春奈の答えを待つ。
 ここまで話をきいてしまえば、もうプロフォトグラファー春奈の私生活が気になって引き返せなくなっていた。

「いくら話し合いをしても裕介んちのほうが『うん』といわないから、強硬手段に出たというか、裕介を養子にしたのよ」
「え?」
 養子にしたということは、裕介が春奈の元へ嫁いだということなのだろうか?
 よくよくきけば、反対していたのは夫側の家だけだったので、妻側の家が全部ひっくるめて裕介を受け入れたとのことだった。誇らしげに、婿を取ったんだと春奈は豪語した。

「だから、東野池っていうのは私の名字なんだ。とうのい()、ゆうす()で、韻を踏んでいるのは、そういうこと!」
「そうだったんですか」
 紹介されたときに、「ちょっとつっかえる名前だな」と思った理由が、ここでわかった。

< 54 / 187 >

この作品をシェア

pagetop