我慢ばかりの「お姉様」をやめさせていただきます~追放された出来損ない聖女、実は魔物を従わせて王都を守っていました。追放先で自由気ままに村づくりを謳歌します~

「……ぜんっぜん人がいないわね」
 あれから洞穴を出て森を抜けてみたが、村は静まり返っており、まったく人が見つからない。
「村にはちゃんと住人がいるのよね?」
 私が聞くと、クロマルは首を縦に振る。人が住んでいるということに間違いはないらしい。その事実を表すように、きちんと小さな家もちらほらと建っている。
「瘴気の濃い森に囲まれてるんだ。みんな魔物を恐れて、すっかり引きこもり状態なんじゃないか? それにこんな空気の淀んだ場所――外に出たとて、いい気分にはならないだろ」
 結界が張れていないせいか、村全体が障気に満ちている。ユーインの言う通り、自ら外に出ようなんて思う村人は極めて稀なのだろうか。
「これじゃあ一生〝住みやすい村〟になんてならないな。お前ひとりが住みやすくたってなんの意味もない」
「それはそうだけど……あっ!」
 すると、ひとつの家からひとりの女の子が外へ出てきた。彼女は玄関の周りに置いてある植木鉢に水をやっている。こうして見ていると、普通の日常の一シーンといった感じだ。とりあえず、きちんと住人がいてきちんと暮らしていることに安心する。
「話しかけてみましょう。……こんにちは! 私、今日ここへ来たばかりで――」
 私は住人を見つけた喜びで、その勢いのまま女の子に向かって声を張り上げた。
「……っ!」
 穏やかな顔で水やりをしていた女の子はこちらを見るなり血相を変えて、持っていたじょうろを放り投げて家の中へ戻ってしまった。その様子を見て、ユーインとクロマルが同時にため息をつく。
「魔物を従えてるやつなんか見たら、ああなるのが普通だろうな。まさか魔物使いなんてものが、本当に存在しているなんて思っちゃいないだろうし」
【自分を襲ったやつの肩を持ちたくないけど……その通りかも。アナは特別だけど、僕たちと人間は敵対してる存在だから】
 さっきの女の子のように力のない人間からすると、魔物から逃げる以外の術がないのだろう。だから私の隣にいるクロマルを見て、あんな顔をしたんだわ。
「人間も魔物も仲良くできるわ。お互い〝害を加える気はない〟って認識を得られれば必ず。あの子にもそれが伝わるはずよ」
「どうだか。まぁ、やってみればいい。俺は楽しく見物してやるさ。……で、次はどうするんだ? いつまでも誰もいないところに突っ立ってても仕方がないぞ」
 その後もしばらく待ってみるが、誰かが外へ出てくる気配がない。片っ端から家を訪ねてみるのもありかと思ったが――クロマルを連れている以上、誰も中へは入れてくれないだろう。かと言って、私の都合でクロマルを置いてけぼりにするのはなんだか嫌だった。それに目を離した隙に、ユーインが手を出してしまう可能性もゼロではない。私はまだ、この男の真意がまったくわからないし、信できていない。
「とりあえず、食べ物を確保しておきましょう。水は湧いているところをさっき見つけたし、寝る場所もあの洞穴でしばらくしのげるわ」
 様子を見て空き家がないか、それとも空き部屋を持つ住人がいないかを探して、住む場所は追々確保できたらいいと考え、まずは数日を乗り越えるための食料を探すことにした。これも誰かに分けてもらえたらなにより有難いが、ここはそんな他力本願では生きていけないだろう。それにこの先のことを考えると、食べ物がある場所を自分で確保しておいたほうが困らない。
< 14 / 29 >

この作品をシェア

pagetop