我慢ばかりの「お姉様」をやめさせていただきます~追放された出来損ない聖女、実は魔物を従わせて王都を守っていました。追放先で自由気ままに村づくりを謳歌します~
【アナ、それなら僕に任せて。森には木の実や果物、食べられる野草がたくさんあるんだ】
「本当? 頼りになるわ。クロマル!」
【へへっ!】
私が褒めると、クロマルは嬉しそうにぺろりと舌を出してでれっとした顔を見せた。なんてかわいいの! おもわず頭をもふもふ撫でていると、ユーインに「さっさと行くぞ」と怒られてしまった。
その後、私たちは手分けして食料を確保していった。途中に遭遇した魔物たちにも手伝ってもらい、あっという間に両腕で抱えきれないほどの木の実や野草でいっぱいになる。ユーインに「肉が食べたいなら魔物を狩ってやるぞ」と言われたが、丁重にお断りさせてもらった。
「ねぇ、これだけ採れたのだから、村のみんなにおすそわけしない?」
「ほう。住人たちを食べ物で釣ろうってわけか」
「言い方が悪いわね。お近づきのしるしって意味の手土産よ」
いちいち口の悪いユーインのことは気にせずに、私は採れたての食料を抱えて森を抜ける。すると、ひとつの場所に数名の村人が集まっているのが見えた。
円を描くように集まってなにやら話し合いをしているように見えるが、なにかあったのだろうか。微かに見える数名の村人の表情はみんなどこか険しいものに思える。
「今行ったら話し合いの邪魔になるかしら……?」
「そんなの気にしてたら先に向こうにこちらの存在がバレて、また逃げられるかもしれないぞ。どうせ砕けるなら当たって砕けろ」
なんで砕ける限定なんだろうか。しかし、ユーインの言うことも一理ある。とにかく会話にこぎつけることが大事なのだから、ここは空気を読まずに話しかけることにしよう。
【アナ、がんばって!】
クロマルの激励を受けて、私は村人たちの輪に近づく。緊張いているせいか、距離を詰めてもなにを話しているのかはまったく頭に入ってこない。
「あのー……ちょっといいですか?」
恐る恐る声をかけると、会話がぴたりとやんだ。そして全員が一斉に私のほうを見る。
「は、初めまして。私、アナスタシアといいます。今日ここに来たばかりなんですけど、お近づきのしるしにおすそ分けを――」
「こいつが〝魔女〟か!」
……魔女? 誰が?
「え、えーっと?」
村人たちは私を思い切り睨みつけ、少し距離をとって警戒心を剥き出しにしている。もしかして、いや、もしかしなくとも……魔女って私のこと?
「ジェシカから魔物を連れてる怪しげな男女二人組がいるって聞いたんだ! 森に狩りにいったやつも、魔物を従えてる黒髪の女を見たと言っていた!」
「魔物と手を組んで、ついにここを滅ぼしにきたのか!? そうはさせないぞ! 俺たちだって死ぬ気で生きてるんだ」
「さっさとこの村から出て行け! ここはお前みたいなお嬢様が来る場所じゃないんだよ!」
方々から罵声を浴びせられたかと思うと、ひとりの男性が地面に転がっていた大きな石を拾い、私をめがけてそれを投げつけてくる。
「……っ!」
ぶつかる――そう思い、私は咄嗟に目を瞑った。しかし、なんの衝撃も起きない。
「……ユーイン」
目を開けると、ユーインが涼しい顔をして私の前に立ちはだかり、片手で石をキャッチしているではないか。
「すまないが、このお嬢様を守るのが今の俺の任務でね。ちなみに……そいつも」
「っ! ブ、ブラックウルフがいるぞ」
村人たちの足元で、クロマルが威嚇している。どうやらふたりとも、いつでも私の護衛をできるよう準備してくれていたらしい。
「怯むな! ここで追い出しておかないと、やられるのはこっちだぞ……!」
「だ、だけど、騎士と魔物がいちゃあ……」
村人たちが悩んでいるあいだに、ユーインがそっと耳打ちをしてくる。
「いまのうちに退こう。ここで争ってもなんの意味のない」
「……そうね」
私が頷くと、ユーインは強引に私の手を引いて走り出した。その拍子にせっかく収穫した野草や果物が落ちてしまったが、拾う暇もない。そしてそれに続くように、クロマルも私たちを追いかける。
「おい、魔女が逃げたぞ!」
背後からバタバタと私たちを追いかけてくる足音が聞こえた。それを聞いて私は恐怖よりも、悲しみの感情のほうが勝っていた。
「ここまで来れば追ってこないだろう」
森へ入ると、忙しなく聞こえていた足音がやんだ。ユーインは私から手を離し、ふぅと小さく息を漏らす。結構走ったと言うのに、汗ひとつかいていない。下級とはいえどさすが騎士……日頃から体力をつける訓練をしているのだろう。
クロマルも普段から走ることが多いのか、ちっとも疲れているように見えない。そんななか私だけが、ゼェハァと呼吸を荒くしているのがちょっと恥ずかしく感じる。
【大丈夫? アナ……】
「本当? 頼りになるわ。クロマル!」
【へへっ!】
私が褒めると、クロマルは嬉しそうにぺろりと舌を出してでれっとした顔を見せた。なんてかわいいの! おもわず頭をもふもふ撫でていると、ユーインに「さっさと行くぞ」と怒られてしまった。
その後、私たちは手分けして食料を確保していった。途中に遭遇した魔物たちにも手伝ってもらい、あっという間に両腕で抱えきれないほどの木の実や野草でいっぱいになる。ユーインに「肉が食べたいなら魔物を狩ってやるぞ」と言われたが、丁重にお断りさせてもらった。
「ねぇ、これだけ採れたのだから、村のみんなにおすそわけしない?」
「ほう。住人たちを食べ物で釣ろうってわけか」
「言い方が悪いわね。お近づきのしるしって意味の手土産よ」
いちいち口の悪いユーインのことは気にせずに、私は採れたての食料を抱えて森を抜ける。すると、ひとつの場所に数名の村人が集まっているのが見えた。
円を描くように集まってなにやら話し合いをしているように見えるが、なにかあったのだろうか。微かに見える数名の村人の表情はみんなどこか険しいものに思える。
「今行ったら話し合いの邪魔になるかしら……?」
「そんなの気にしてたら先に向こうにこちらの存在がバレて、また逃げられるかもしれないぞ。どうせ砕けるなら当たって砕けろ」
なんで砕ける限定なんだろうか。しかし、ユーインの言うことも一理ある。とにかく会話にこぎつけることが大事なのだから、ここは空気を読まずに話しかけることにしよう。
【アナ、がんばって!】
クロマルの激励を受けて、私は村人たちの輪に近づく。緊張いているせいか、距離を詰めてもなにを話しているのかはまったく頭に入ってこない。
「あのー……ちょっといいですか?」
恐る恐る声をかけると、会話がぴたりとやんだ。そして全員が一斉に私のほうを見る。
「は、初めまして。私、アナスタシアといいます。今日ここに来たばかりなんですけど、お近づきのしるしにおすそ分けを――」
「こいつが〝魔女〟か!」
……魔女? 誰が?
「え、えーっと?」
村人たちは私を思い切り睨みつけ、少し距離をとって警戒心を剥き出しにしている。もしかして、いや、もしかしなくとも……魔女って私のこと?
「ジェシカから魔物を連れてる怪しげな男女二人組がいるって聞いたんだ! 森に狩りにいったやつも、魔物を従えてる黒髪の女を見たと言っていた!」
「魔物と手を組んで、ついにここを滅ぼしにきたのか!? そうはさせないぞ! 俺たちだって死ぬ気で生きてるんだ」
「さっさとこの村から出て行け! ここはお前みたいなお嬢様が来る場所じゃないんだよ!」
方々から罵声を浴びせられたかと思うと、ひとりの男性が地面に転がっていた大きな石を拾い、私をめがけてそれを投げつけてくる。
「……っ!」
ぶつかる――そう思い、私は咄嗟に目を瞑った。しかし、なんの衝撃も起きない。
「……ユーイン」
目を開けると、ユーインが涼しい顔をして私の前に立ちはだかり、片手で石をキャッチしているではないか。
「すまないが、このお嬢様を守るのが今の俺の任務でね。ちなみに……そいつも」
「っ! ブ、ブラックウルフがいるぞ」
村人たちの足元で、クロマルが威嚇している。どうやらふたりとも、いつでも私の護衛をできるよう準備してくれていたらしい。
「怯むな! ここで追い出しておかないと、やられるのはこっちだぞ……!」
「だ、だけど、騎士と魔物がいちゃあ……」
村人たちが悩んでいるあいだに、ユーインがそっと耳打ちをしてくる。
「いまのうちに退こう。ここで争ってもなんの意味のない」
「……そうね」
私が頷くと、ユーインは強引に私の手を引いて走り出した。その拍子にせっかく収穫した野草や果物が落ちてしまったが、拾う暇もない。そしてそれに続くように、クロマルも私たちを追いかける。
「おい、魔女が逃げたぞ!」
背後からバタバタと私たちを追いかけてくる足音が聞こえた。それを聞いて私は恐怖よりも、悲しみの感情のほうが勝っていた。
「ここまで来れば追ってこないだろう」
森へ入ると、忙しなく聞こえていた足音がやんだ。ユーインは私から手を離し、ふぅと小さく息を漏らす。結構走ったと言うのに、汗ひとつかいていない。下級とはいえどさすが騎士……日頃から体力をつける訓練をしているのだろう。
クロマルも普段から走ることが多いのか、ちっとも疲れているように見えない。そんななか私だけが、ゼェハァと呼吸を荒くしているのがちょっと恥ずかしく感じる。
【大丈夫? アナ……】