溺愛されては困るのです ~伯爵令嬢、麗華の憂鬱~
 公園に行った夜から二日後、流星が荒鬼邸に来た。

 俥夫から指輪の話を聞いた流星は、ベンチの下に落ちていたルビーの指輪を拾い、届けてくれたのだ。

 彼は指輪だけでなく、麗華が涼風邸の庭で落としたパラソルも持ってきてくれた。
 お見舞いにと、珍しい紫色の薔薇の花束も添えて。

「遅くなってすまなかった」
「いいえ。お忙しいでしょうに、こちらこそ申し訳ないです」

 受け取った薔薇の花束を小桃に渡し「どうぞ」とソファーを勧める。

「あの日のように雲が厚い夜は、鬼が出やすいんだ」
 ただし、帝都の市街地に鬼が出るのはごく稀だという。

「あの公園にいた男たちはいずれも、強盗や殺人などで指名手配されている者だった。強い悪心は鬼を引き寄せることもあって――まぁ偶然が重なったんだな」

「――そう、ですか」

 あれから大変だった。
 第九師団や警察が集まり、公園一帯は丸一日閉鎖された。
< 73 / 78 >

この作品をシェア

pagetop