私、修道女になりたいのですが。。。 ー 悪役令嬢のささやかな野望?
こんな衝動は初めてだ。
 彼女は俺のキスに驚いているのか、目を見開いたまま。
 キスを終わらせると、マリアは放心していた。
「残念だったな。これで、婚約破棄はできなくなった」
 口づけは、婚姻の約束。
 それを違えれば、死を持って償わなくてはならない。
 なぜそんなことをしたのか、自分でもわからなかった。
 だが、昨日一緒に孤児院で過ごして、彼女が欲しいと思ったんだ。
「ア、アレックス様?」
 ハッとした顔で俺に説明を求める彼女の唇に指で触れながら告げる。
「ようやく口が聞けるようになったようだな。マリアにはここにいてもらう」
「え?」
「公爵邸には知らせてある。心配はいらない」
 昨夜公爵邸には使い出して、道端で倒れていたマリアを保護したと伝えている。
 通常婚姻前の婚約者を城に滞在させるのはタブーだが、城の医師に診させるといえば、体裁が保てる。
 なにも危険がないと判明するまでは彼女を公爵邸に帰せない。
「アレックス様、話が見えないのですが」
 困惑する彼女に、優しく言い直す。
「つまり、お前はここでゆっくり静養すればいい。記憶も戻るかもしれない」
 俺の言葉を聞いて、彼女が俺から視線を逸らし、そのアメジストの瞳を曇らせる。
「もう戻らない気がします」
「そう暗い顔をするな。忘れたなら、これから知っていけばいいのだ」
「そうですね」
 俺に少し笑ってみせたものの、彼女の瞳はまだ翳っていた。
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