さよならの夜に初めてを捧げたら御曹司の深愛に囚われました
5.君にとって終わりでも、俺にとっては始まりだった
「悪くない話だ。この分野は商品が飽和状態で、うちとしても風穴を開けたかったからな。さすがに抜け目ないな」

『先輩の嗅覚にはかないませんよ。今大ヒットしている筆記用具のシリーズ、噂でINOSEの副社長の肝入りって聞いてますが、本当ですか?』

 副社長室で和輝は仕事の電話をしていた。
 相手は和輝の大学の後輩で、大手精密機器メーカーの跡取り。現在は経営戦略室の部長をしている男だ。

 彼からオフィスの利用状況の可視化からデジタルデータ化までトータルで管理できる新しいアプリケーションを共同開発しないかと打診されたのだ。もちろんそれに用いる超小型センサーは彼の会社の製品となる。

 先方には事務機器を導入してもらっているし、オフィスデザインもINOSEが引き受けている。いわゆる互恵の形ではあるが、お互いの企業が持つ実力を認識したうえでの取引だ。

 電話の向こうで如才なく受け答えしてくる男は、物腰は柔らかいが実はかなりのやり手である。後輩で気心が知れてはいるが油断はできない。
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