さよならの夜に初めてを捧げたら御曹司の深愛に囚われました
 最近大当たりした新しい素材のインクを使った筆記用品は、確かに和輝が目をつけて商品化に持ち込んだものだが「どうだろうな」うそぶいておく。

「それより、この件はまず小規模プロジェクトでスタートアップして実現可能か検討しよう。人選を進めておく」

『こちらも精鋭を選出しますし、僕も最初は入らせてもらいます』

「そうだな。よろしく頼む……それはそうと、どうだ。新婚生活は」

 元々人当たりのいい男だが、今日は特に声が明るい気がして和輝は普段なら仕事中にしない話題を口にした。

 和輝は数か月前に彼の結婚式に出席している。
 花嫁は彼の部下の一般女性。大企業の次期社長が挙げる式としては派手さはなかったかもしれないが、心のこもった暖かい場で、新郎新婦の幸せそうな笑顔が印象に残っている。

『まあ、控えめに言って毎日幸せ過ぎて怖いくらいです。だれよりも愛する女性が自分の妻になって、名実ともに僕のものなんですから』

「聞いたのは間違いだったな」

 速攻で惚気る後輩に苦笑すると『はは、すみません』と柔らかい笑い声が聞こえてきた。本当に幸せでしょうがないのだろう。
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