別れを決めたので、最後に愛をください~60日間のかりそめ婚で御曹司の独占欲が溢れ出す~
 和輝に視線向けて感謝を伝える。

「よかったな」

 短い言葉と共に、膝の未来の両手の上に和輝の左手の大きな掌が重なる。
 温かさと共に未来へのいたわりの気持ちが伝わってくる。

 そっと彼の横顔をうかがうと、水槽から差す柔らかな青い光の陰影が彼の美貌を際立たせていた。

(どうしよう。私、どんどん和くんのこと好きになってく)

 和輝が優しいことなんて元から知っている、でも、彼の傍で暮らすようになってからはその優しさが自分だけに向けられる特別なものと錯覚してしまうことがある。現に今もそうだ。

『未来のことを僕に話してくれる彼の表情はとても優しかった』

 そう言っていた父の言葉にすがりたくなる。

 幼なじみだからとか責任や同情も関係なく、こんなにも好きになった人が自分を一人の女性として愛してくれてくれたらどれほど幸せだろう。

(だめ、余計な事考えたらもっと離れられなくなるし、離れるときに辛い)

 彼との暮らしは長くてもあと1ヶ月弱。

 こんなにも大事にしてくれる和輝に自分ができることは、彼にこれ以上負担も罪悪感も持たせずにそっと離れることだ。
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