さよならの夜に初めてを捧げたら御曹司の深愛に囚われました
 少し照れつつ説明してくれる桜衣に、未来はすっと手を合わせて目を閉じていた。

「いや、もうなんだか推しカップルの久々の再会というシチュエーションが尊くて」

「もう何言ってるのよ」と笑う桜衣の笑顔はやっぱり晴れやかで、こちらも嬉しくなる。

 明るい気持ちで仕事を進めていると、フロアの入り口に和輝の姿を認めドキリと胸が高鳴る。
 今更だし、なんなら今朝も一緒に過ごしたというのに。

(今までだって何度もこうやってフロアで見てきたのに、仕事モードの和くんって家にいるときの甘いモードとのギャップがあってドキドキするんだよね……って何考えてるの仕事仕事!)

 意識をパソコンの画面に戻そうとすると、和輝に伴われ、恰幅のいい50代くらいの男性、そしてもうひとり女性が入ってきた。

 その姿を見て未来の心臓はドクンと鳴った。

 すっと伸びたスレンダーな体つき、艶のある長い黒髪、なにより華やかで美しい顔立ちを忘れることはできない。

「日比野さん……」

 思わず小さい独り言が漏れる。

 日比野加奈、国内大手の楽器メーカー日比野楽器の社長令嬢。現在30歳の彼女は国内外で活躍する若手フルート奏者だ。
< 157 / 230 >

この作品をシェア

pagetop