さよならの夜に初めてを捧げたら御曹司の深愛に囚われました
「いえ、きちんと試験を受けて正規のルートで入社しています。それにもう猪瀬のお屋敷は出ています」

 事実なのではっきりと答えたものの、未来の心中は複雑だ。

(でも今は“和輝さん”の家に転がりこんで新婚みたいな生活してますなんて、口が裂けても言えない)

「ふーん、まあどっちでもいいけど。それより私、これからは日本で活動することにしたの。結婚のこともあるから」

 ”結婚”に意味深なニュアンスを持たせて笑う加奈に、未来の胸はザワザワと騒ぎ出す。

(やっぱり、和くんと日比野さんの結婚話は本当なの?)

「……あの、日比野さん」

 聞くのがとてつもなく怖い。でも、今逃げずに聞かなければ。

「なあに?」

「日比野さんと和……副社長との結婚話があると耳にしたのですが、事実でしょうか」

 未来は喉の奥から声を絞り出すと、加奈は目を瞬かせてから声を弾ませた。

「あら、もう知っていたの」
< 167 / 230 >

この作品をシェア

pagetop