さよならの夜に初めてを捧げたら御曹司の深愛に囚われました
9.告白と離れる決意
 遡ること数時間前

 未来は定時を過ぎても仕事をしている桜衣に声をかけた。

「桜衣さん、そろそろ帰らないと。一度帰ってから空港に向かうんですよね」

「うん、もう帰れるわ。そういう未来ちゃんも早く帰った方がいいわよ。さっきよりは顔色良くなったみたいだけど」

「心配かけちゃってすみません。もう大丈夫ですし、これ終わったら帰りますから。あ、依頼してもらった見積書は明日桜衣さんがお休みの間にしっかり仕上げておきますから安心してくださいね」

「ありがとう……でも、未来ちゃん本当に無理しないでね」
 
 こちらを見る桜衣の表情は気遣わしげだ。優しい先輩をもって本当にありがたい。

「はーい、今日はゆっくり寝ます。桜衣さん、結城部長によろしくお伝えくださいね」
 
 なおさら心配させるわけにはいけないと未来は明るい声を出した。

 桜衣が退勤した後30分ほどで残務を終えた未来は、さて帰ろうと椅子から立ち上がった――まま動作が止まった。

(……帰るって、和くんのマンションに? 私あそこにいていいの?)
 
 仕事に集中している内は良かったが、終わってしまうと嫌でも現実と向き合わされる。
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