さよならの夜に初めてを捧げたら御曹司の深愛に囚われました
『私の帰国を知った和輝さんに今度こそ妻にと望んでいただけたの。5年前はタイミングが合わなかったけど今なら彼の想いを受け入れることができると思っているわ。未来さん、あなたも祝福してくれるわよね?』

 応接室で聞いた加奈の話を反芻しつつ、肩にかけたバックの紐を握りしめ立ち尽くしていた未来は「園田」と自分を呼ぶ声に我に返った。

 そこにはまだ仕事中とおぼしき尾形がいた。

「今から帰るのか? 下まで一緒に行く」

「あ、尾形君お疲れ。外に用があるの?」

「いや、ちょっとな」

 めずらしく歯切れが悪い尾形を不思議に思いながら一緒にエレベーターに乗る。

「さっき顔色悪かったみたいだけど大丈夫か?」

「そっか、心配かけちゃったんだね。大丈夫だよ、ちょっと働きすぎだったかな~。それを言ったら尾形君の方がもっと働いてるか」

「ああ、まあ無理すんなよ」

 未来は敢えて明るく言ったのだが、いつものような軽い切り返しが来ない。それに何か緊張しているように見える。

「……園田、ちょっとだけいいか」

 エレベータがグランドフロアに着くと、ロビーの端にある人気のないスペースに誘われた。

「尾形くん?」

 訳も分からず正面に立った尾形を見上げる。
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