さよならの夜に初めてを捧げたら御曹司の深愛に囚われました
「遅くとも10月には挙げたい。ああ、場所も形式も未来が好きなようにしたらいいからな」

 未来の肩を抱き寄せたまま和輝が言う。

「10月!? あと3か月くらいしかないんですけど。普通いろいろ準備とかあるよね?」

 大企業の跡取り息子の結婚式だ。もっと時間をかけて会場選びや招待客の選出などするものではないのだろうか。
 これでは和輝は場所も形式もこだわらないけど、スピードだけにこだわっているように思える。

「そんなものどうにでもなる」

「なるね」

「楽しみねぇ。屋敷のお庭で披露パーティっていうのもいいわね。晶子さんがお嫁に来た時もそうしたじゃない」

「10月ならゲストにお庭も楽しんでいただけますね。そうなった際は使用人一同全力でおもてなしさせていただきます」
 
 和輝、貴久、美津子さらにはいつの間にか井部も加わっている。

(みんなノリノリでだれも止める人がいない……! 急展開過ぎて違う方向で心配になるんですけど)

 突っ込むタイミングを失い、口をパクパクとしてしまう。

「うふふ、未来ちゃん。猪瀬の血を引く男はもれなく愛が重いの。一度捕まえられたら一生放してもらえないわよ。覚悟してね」

 将来の義祖母は皺のある顔で上品に笑った。
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