ウェディングドレスは深紅に染まる

 王宮の外れにある一室。

 部屋はあまり広くはなく、小窓が1つ。

 調度品は全て一流品で揃えられ、ドレスや靴は三桁は下回らず(くだらず)、宝飾品の数々は輝きに目が眩むほど……そして、鏡の前に座っている、ガラス玉のような空虚な瞳の令嬢。

 その光景はとてもアンバランスなものだった。

「エリナと狩りに行ってね。獣の血がついてしまったんだ。綺麗にしてやってくれ」

 血の臭いに加え、どうみても尋常じゃないエリナの様子に凄惨さを感じたメイド達の背筋が凍る。

 部屋の前に見張りを配置した後、レナードは声なき声で恋人の名を呼び続けているエリナの顎を上げ、ニヤリと口を歪ませた。

「ライド家とバーラ家は王家反逆の罪で取り潰しになった。君に帰る場所はない。ああ、死のうなんて考えちゃいけないよ。この部屋には君を傷つける物は一切置いてないからね。万が一、何かあれば、僕の花嫁を守れなかった罪でこの部屋の使用人を1人ずつ処刑するよ? まぁ、それもまた一興だけどね」

 瞳を冷たく光らせ、クスクスと楽しそうに笑う。

「1ヶ月後の結婚儀式が楽しみだ」



 毎日毎日、エリナは小さな窓から空を眺めていた。

 何も見てない、何も考えてないサファイアの瞳で、ただ空を眺めていた。

「痩せ細っていると、抱き心地が悪いからな」

 頭のてっぺんからつま先まで舐めるようにエリナを見るレナード。無理やり食事をとらせ、無反応のエリナに何度も口づけをする。


 毎日同じ事が繰り返される日々、時間だけが経っていった。

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