雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「――創介さん、本当にごめんなさい」
家を出て団地の建物の外まで来ると、申し訳ない気持ちで一杯でそう頭を下げた。
「雪野」
「本当に、ごめんなさい。嫌な思いさせたよね」
いつの間にか、空は薄暗くなっていた。そろそろ春とは言え、まだ日は長くない。
「雪野、顔上げろ」
きっと、気分を害したに決まってる。
一方的に責められて、今、その心の中は――。
「雪野」
俯いたままの私の肩にそっと手を置いた。
「おまえが謝ることじゃない。俺は大丈夫だ」
創介さんが私の顔を覗き込む。
「ほんと、に……?」
「ああ。おまえのお母さんの気持ちも、分かるからな」
優しい目で見つめられて、余計にいたたまれなくなる。
「俺だって、自分に娘がいたら、俺のような家の男と結婚させたくないと思うだろう」
冗談ぽく創介さんがそう言った。
「――でも。俺はおまえが欲しいんだ。これは確かに、相当な我儘だよな。こんな我儘を押し通そうって言うんだから、どんな困難だって受け入れるさ」
「お母さん、創介さんに酷いことを言いました」
自分が居心地いいために私を手に入れたいんじゃないかなんて。あんなこと言われて、いい気分なわけない。
「いや。さすが、痛いところを突かれたよ。俺は自分勝手な人間だからな。でも、自分勝手なりに雪野のことは大事に想ってるし大切にしたいから。それを分かってもらえるように、また話をしに来る。俺もお母さんの言葉に全部にきちんと答えられなかったしな。おまえもあまり気にするな」
大きな手のひらが、私の頭をそっと撫でた。
「ほら、そんな顔するなよ。まだ一度目だ。何度だって頼みに行く」
創介さんが、苦手な笑顔を作って私を見つめてくれた。
「はい」
私もなんとか笑顔で返す。
「――これ、あまりの緊張で手渡すのを忘れていた。家族の皆さんで食べてくれ」
そう言って差し出されたのは、来た時も手にしていた紙袋だった。
そんな失敗をしてしまうほど、本当に緊張していたんだ……。
まじまじと創介さんの顔を見つめてしまった。
「俺も、まだまだだな。仕事では結構な修羅場も経験して来たつもりだったけど、そんな経験何の役にも立たなかった。でも、必ず認めてもらえるよう誠意を尽くしたい。誰でもない、雪野の大事な母親だ。結婚式の日には笑っていてもらいたいからな」
「……はい」
創介さんは笑顔のままでそう言うと、「じゃあ、またな」と言って私に背を向けた。