雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
結局、母との話は平行線のままで、何の進展も得られなかった。
どうしたら理解してもらえるのか、答えが見つからない。気付けば溜息ばかりを吐いていた。
「まだ帰らないの?」
「えっ……?」
同じ課の先輩が、上着を着ながら声を掛けて来た。
「もうこんな時間だったんですね。もう少ししたら帰ります。お疲れ様でした」
慌てて見上げた壁の時計は、夜の八時を指していた。
「お疲れ。早く帰るんだよ」
その先輩が執務室を出て行き、部屋に一人になる。
なんとなく、家に帰りたくない――。
優太にも、私と母に挟まれて気を遣わせている。このままじゃよくないのはわかっている。
でも、何を言っても母の態度は変わらない。
母の気持ちが分かるだけに、強くも言えない。
言いようのない不安が私を押し潰そうとする。
職場を出てすぐに創介さんに電話をかけた。
(雪野、どうした?)
長めのコールの後、創介さんの声が耳に届く。
「声が聞きたくなって……」
(何かあったのか?)
勢いのままに掛けてしまったが、この時間ならまだ仕事中のはずだ。
「こんな時間にごめんなさい。仕事中でしたよね」
(今は大丈夫だ。それより、声が聞きたいなんてどうした。お母さんと、何かあったか?)
ぎゅっと目を閉じる。
「……私、早く、創介さんのものになりたい」
この身動きの取れない状況に、強引にでも奪ってほしいなんて、そんなことを考えてしまう。
(もう、お互いのものだろ?)
「でも、私、不安で――」
このまま母が賛成してくれなかったら。
創介さんのお父様も、本当は許してなんかいなかったら――。
創介さんから離れたくないと思ってしまえば、そんな不安ばかりが押し寄せて来るのだ。
(雪野、大丈夫だ)
優しく囁くような声に、より甘えてしまいたくなる。
(雪野を手放したりしないし、おまえが去っていくのも許さない。誰が許さなくてもだ。何があっても一緒にいる。それだけは変わらない。そうだろう?)
小さな子どもにでもなったように、私はスマホを握り締めながらただ何度もうんうんと頷く。
(だったら、何度でもお願いすればいいだけだ)
「……ごめんなさい。勝手に不安になったりして。心配かけちゃいますよね」
むしろ創介さんの方が辛い立場にあるのに、私の方が弱音を吐いてしまった。
(雪野はしっかりし過ぎるところがあるから、まだまだ足りないくらいだ。もっと俺に甘えていい)
創介さんの声が、じんわりと心に染み込んで行く。
(また会いに行く。俺ももっともっとお母さんの気持ちや不安を知りたいと思ってる。少しでも安心して雪野を送り出せるようにさせたい)
「ありがとう、創介さん」
どんな不安も恐れも、もう一人で抱えることはないんだと、創介さんが教えてくれる。