雪降る夜はあなたに会いたい 【下】


 それから一週間ほど経った日のことだった。

 いつもは私より帰宅が早いはずの母が、仕事から帰ってもまだ家にいなかった。

「あれ……お母さんまだなの?」

玄関で靴を脱ぎ、部屋へと入りながら声を掛ける。

「ああ。遅くなるって、さっき電話あったけど。どうしてだかは知らない」

お風呂場へと向かう優太の返事に、不思議に思いながら自分の部屋へと入る。


「ただいまー」

それから少しして、玄関口から母の声がした。

「おかえり」
「雪野も帰ってたんだね。今度の日曜日、お祝いしようか」
「急に、何の話?」

意味が分からず母の顔を見る。

「榊さんにも、来てもらう約束したからね」
「え……ええっ?」

更に驚かされる。

「どういうこと? 榊さんって、創介さんに会ったの?」

まったく訳が分からない。

「そう。今日、今までお話してたのよ」

そんな話、聞いていない――。

「なんだよ、騒がしいな。どうしたんだよ」

お風呂から出て来た優太が、髪をタオルで拭きながら居間にやって来た。

「優太も、今度の日曜日は開けておいてね。うちで、雪野のお祝いするから」
「母さん、姉ちゃんの結婚許したの?」

弟も同じように目をぱちくりとさせている。姉弟揃って、頭の中はクエスチョンマークが回っていた。

「雪野」
「はい……」

母が私の腕を取り、座らせる。そして、私の真正面に母が座った。

「これまで、喜んであげられなくてごめんね。それだけじゃなくて、雪野の話も聞いてやらなかった。苦しかったでしょう」

まだ状況をよく理解できないまま、母の目を見つめた。

「心から愛している人とは、誰が止めたって離れられないもの。それを分かっていてお母さんは反対したの」
「分かってて、敢えて反対した……?」

母が頷き、私の手を両手で包み込んだ。

「一つは、雪野にどれだけ大変な結婚なのかを改めて考えさせるため。家の格が違い過ぎる結婚は苦労が多い。それをどれだけ覚悟できるかが大事だからよ。反対されるくらいで心が折れていたら、そんな得体の知れない家に嫁ぐことなんて出来ないと思うの」

私の覚悟を見たかったのか。

「もう一つは、榊さんに知ってもらうため」
「創介さんに?」
「そう。相手の親に、受け入れてもらえないということがどういうことか。多かれ少なかれ、これから雪野が味わうこと。もしかしたら、これまでだって、そんな経験しているんじゃない?」

二年前、創介さんのお父様の代理として、秘書の方が私の前に現れた。

「あなたの痛みを榊さんにも知ってもらいたかったのよ。そうすれば、この先、雪野が何か向こうのご家族との関係で辛い目に遭った時、きっとその痛みを分かってくれる。その辛さを共感してもらえるだけで救われるってこと、あると思うのよ」
「お母さん……」

私は、知っていたはずだった。母の愛情の深さを。それなのに、見えていなかった。

「榊さんが、今日お母さんところに会いに来て、言ってくれたの」

母の言葉にまたも驚く。

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