雪降る夜はあなたに会いたい 【下】

「お母さんのところって、お母さんのパート先?」
「そうなのよ。夕方、あんな場所に立派な男の人が立ってるからびっくりしちゃって。店のパートさんたちも大騒ぎしてたわよ」

会いに行くとは言ってくれていた。でも、まさか母に直接会いに行くなんて思わなかった。

家まで送ってもらう途中で、母の勤める惣菜店を通った時に教えたことはあった気がする。

それで、直接お母さんのパート先に――?

「榊さんは正直な人だね。お母さんに言ったのよ。自分の立場では分からない感覚のこともある。だから、お母さんの考えていること、不安、気持ち……全部教えてほしいって。それを知らないと、始まらないからって」

――俺ももっともっと知りたいと思ってる。

そう言ってくれていたのを思い出す。

「だからね、包み隠さず言葉を濁さず、全部伝えた。榊さんも正面からにお母さんに答えてくれた。榊さんが雪野のいないところで話をしに来てくれたのは、雪野にもお母さんにも気を使わせたくなかったからじゃないかな」

私が傍にいれば、私は母の言葉に心を痛める。
母は、私を気にして、本当に言いたいことのすべてを言えないかもしれない。

そんなことまで、考えてくれていた。私の家族のことをちゃんと――。

そう思ったら、胸の奥が熱くなって、そのまま涙腺まで刺激してくる。

「お母さん、榊さんの言葉に心を打たれたよ」

創介さんが母に言ったことを教えてくれた。

「特殊な環境で育った自分に、人ととして当たり前のことを教えてくれたのが雪野だって。唯一無二の存在たがら、お母さんに負けないくらい、雪野には幸せでいてほしいと思ってるって言ってくててね。

結婚すれば、辛い立場に身を置かせることになるかもしれない。苦しい時に、力を貸して欲しいと私に頭を下げたのよ」

母がふっと息を吐いて、しみじみと言った。

「――自分も出来るだけのことはするけれど、それでも自分の力だけでは足りない時がある。どうか一緒に雪野を支えてほしいって。なかなか言えないよね」

無意識のうちに口元を手で覆い、涙を堪えていた。

「人は支え合って生きて行くんだよなって、改めて思ってね。絶対大丈夫ですって言われるより信頼できた。この人になら、雪野を託せる。お母さん、そう思えたよ」
「……ありがとう。ありがと、お母さん」

涙がこぼれてしまう私の肩を、お母さんがぽんぽんと叩く。

「よかったな、姉ちゃん」
「うん」
「雪野。人生を懸けて決めたことなんだから、ちょっとやそっとのことで負けちゃだめよ。自分の決めたことを貫いて」

母が、強い眼差しで私に向けられた。

「でも――」

その強い眼差しが、いつもの母の優しげな目に変わる。

「それでもどうしても辛い時は、逃げて帰ってきてもいい。ここはいつまでもあなたの家なんだから。その時は、また雪野が立ち上がれるように、お母さんも優太もあなたの手を引っ張る」
「そうだぞ」

優太までもが、その声を滲ませている。

「雪野――」

いつも私たちを必死で育ててくれた、がさがさでそれでいて暖かい手が私の手のひらを強く握り締めた。

「おめでとう。幸せになるのよ」

もう声にならなくてただ頷いた。

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