雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
創介さんの本当の母親ではない。そして、榊君のお母さん――。
その目は伏せられたままで、何を考えているのかうかがい知れない。
何より、驚くほどに美しい人だった。きっと、若い頃はとても綺麗な人だったんだろう。榊君の人目を惹く容姿の理由が分かったような気がした。
「――この家で同居しないことは認めたんだ。結婚式場と招待客くらいは私の意向を汲め」
え――?
耳に届いたお父様の言葉に、創介さんの顔を思わず見つめた。
「善処します」
同居しないって、どういうこと――?
今、創介さんはこの家に住んでいる。当然のこととして私もこの家で暮らすことになるのだと思っていた。
「それと、来月あたり、雪野のご家族と顔合わせしたいと思いますのでよろしくお願いします。じゃあ、今日のところはこの辺で。雪野、行こうか」
「え……っ?」
更に驚く。
もう、帰るの――?
慌てふためく私を優しく見つめ、創介さんが立ち上がった。
「今日は、お時間を取ってくださり、ありがとうございました」
とりあえず何かを言わなければと勢いよく頭を下げた。そして、身を正しお父様を真っ直ぐに見据える。
「至らないところばかりだと思いますが、少しでも創介さんを支えることができるように、この先努力し続けて行きたいと思います」
私ができることは、頑張ることだけだ。
「――ああ。また、来なさい」
ただそうとだけ言葉が返って来る。
「は、はい」
とにかく緊張していたら、なんだかよく分からないうちに家の外に出ていた。
「雪野、疲れただろう? 気晴らしにどこか行こう。どこに行きたい?」
立派な門構えの外に出ると、創介さんが私にそんなことを言った。
「こんなにすぐに帰ってしまって良かったんですか?」
「いいんだ。初めはこれくらいでちょうどいいよ。あの人の前にあれ以上いたら、息が詰まる」
創介さんが笑う。
「父親のことは俺が一番分かってる。一度や二度で心を開くような人間じゃない。すぐにどうこうならなくても、まったく気にする必要はないからな。時間はいくらでもある。ゆっくりやって行こう」
「私、もう、何がなんだか分からなくて。ちゃんと出来たのか……」
そう不安を口にすると、創介さんが私の髪に触れた。
「充分だ。あの父が顔をしかめなかったからな。それって凄いことだぞ?」
あの表情でも――?
「さあ、行こう。おまえにご褒美をやる」
そう言うと、私の手を引いてさっさと歩き出してしまった。
創介さんの言う通りかもしれない。すぐに受け入れてもらおうだなんて図々しすぎる。
少しずつ、少しずつ。
受け入れてもらえるように頑張ろう――。