雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
――何故か、雪野が赤ん坊を優しい眼差しで抱いている。
これまでのどの表情より優しい顔で。嬉しそうに赤ん坊を抱きながら俺を見上げていた。その傍に立つ俺は、幸せな気持ちで満たされて。
愛おしい存在が二つに増えたことを、心から喜んでいた――。
ハッと目を開く。
その光景は、夢でしかなかった。どうやら、そのままソファでうたた寝したみたいだ。どうして、そんな夢を見たのだろう。
今になって、こんな……。
見開いた先にあったのは、見慣れたリビングの天井で。あけっぱなしのカーテンからは、さっきと同じように月の明かりが差し込んでいる。
その光景を認知すると共に消えて行った、雪野の笑顔と赤ん坊の姿。それはそのまま今の状況を表しているみたいで、激しい喪失感に苦しくなる。
壁にかかる時計に目をやれば、まだ、二十三時。雪野と離れて六時間ほどしか経っていない。なのに、それが果てしないものに思える。
ただ待つということが、どうしようもなく苦しく心許ないもので、思わず胸に手を当てた。
その時――。微かに、物音がした気がした。何かを感じてソファから立ち上がる。
リビングから飛び出すと、薄暗い玄関に雪野が立っていた。
「雪野……」
どうして――。
「ごめんなさい……」
驚きのあまり立ち尽くす。
「ごめんね、こんな時間なのに」
雪野はそう言ったきり、そこを動こうとしなかった。鞄を手にして玄関に立ったまま。
「どうしても、日付が変わる前にって、慌てて帰って来た」
そして、雪野は今にも歪んでしまいそうな笑みを浮かべて俺を見上げた。
どうして雪野が帰って来てくれたのか。こんなにも早く戻って来てくれるとは思わなくて、上手い言葉が出て来なかった。