雪降る夜はあなたに会いたい 【下】


 夕焼けから夜へと変わる狭間の、薄紫の部屋。リビングのソファに身体を投げ出すように座る。
 背もたれに背中をすべてあずけ天井を仰ぎ見た。そして、腕を額に置き目を閉じる。

 妊娠を知った日の、雪野の弾けるような笑顔。あの日の笑顔を思い出すと、胸が痛くなる。すぐに今日の日の雪野の顔を思い出すからだ。それが辛すぎて、雪野の慈しんでいたかのような微笑みを追い払いたい気持ちに襲われる。

でも――。

あの日の雪野の笑顔から、俺は逃げてはいけないのだ。

あの日からの雪野の感情に沿うように。雪野の喜びと哀しみを、同じように。

 雪野は、いつも俺の気持ちに寄り添おうとして来てくれた。

今日だって――。

自分は辛くて仕方がないはずなのに、俺のことを考えて。継母に、雪野が泣きながら話していた言葉全部が、雪野の想いの深さを表している。それなのに、雪野の気持ちに寄り添えなかった。

 俺たち二人の喜びで、二人の哀しみなはずなのに、雪野を一人にした。雪野の中に生まれた小さな命、そして、せっかく芽生えてくれたのに失われた命に想いを馳せる。

 確かに存在してくれていたのに、何も考えてやれなくて。

俺と雪野の子供――。

その存在について考えれば、かけがえのないものだったと分かるのに。俺は、本当にバカだった。

雪野と俺の、二人の――。

雪野がその命をどれだけ大切に想うのか。雪野が向き合う苦しみに、少しでも近づくために、雪野のこと、亡くなった命のことを思う。

 その夜、雪野にメッセージを送った。前から長いメールはあまり得意ではなかったが、結婚してからは尚更そんなメッセージは送らなくなった。

 何度も何度もうっては消し、うっては消し。そうしてやっと送った文。

"俺のことは気にせず、気持ちが落ち着くまで実家にいてくれていい。
でも、必ず戻って来てくれ。
雪野と話がしたい。
雪野が帰りたいと思うまで待っている。
必ず迎えに行くから、その時は連絡をくれ。"

上手い言葉ではない気もしたが、どれも全部俺の気持ちだ。読んでくれればそれでいい。

 雪野のいない夜は、部屋が冷たく感じる。静かな部屋で感じる寂しさを、身体全部で受け止める。


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