雪降る夜はあなたに会いたい 【下】

「司会進行は、古舘さんでお願いします」

とりあえず、段取りについて確認をする。

「りょ、了解」
「それから、乾杯の音頭は、プロジェクトリーダーの吉岡さん」
「おう」
「締めの言葉は草陰係長で、お願いします」
「お、俺?」
「そうです」

まるでお客様のような広岡に代わって私が取り仕切る。

「おまえら、くれぐれも常務に失礼のないようにな。俺は間違いなく出世に関わる。頼むよ」

そんな器量の狭いことを吉岡さんがいい出す。

榊常務は勤務時間後のことで昇進に影響させたりするような、小さな器の方じゃないですよーだ。

つい、心の中で悪態を吐く。


「――榊常務をお連れしました」

そんな時、私達が待つ個室に神原さんの声が届いた。

隣に座る広岡君が急に姿勢をただす。

「みなさん、御苦労さまです」

き、来た――!

榊常務の声に、胸が高鳴りまくる。

「お疲れ様です! さあ、こちらに」

突然、吉岡さんは満面の笑みになり、常務に席をすすめる。その変わり身の早い笑顔に、さすが営業の人だと悪い意味で感心する。

あ、奥様――!

そんなことより、常務の後について来た奥様が部屋に現れて、私はついじっと見つめてしまった。

か、かわ、かわいい――っ!

写真では伝わりきっていなかった、その柔らかな雰囲気に、女の私まで魂持っていかれそうになった。

ということは……。

隣の男は、ぽかんと口を開けて瞬きするのも忘れている。

でも、分かるよ!
その気持ちは分かる。

「今日は、私までお招きくださって、ありがとうございます」

こ、声も優しい……。

微笑んで私たちに会釈する。

「い、いえっ! こちらこそ、突然のお誘い、申し訳ございませんでした」

ずっと黙っていた広岡君が突然声を発した。

「雪野」

常務の奥様を呼ぶその声は、また違うトーンで。そんな些細な変化にもきゅんとする。

そして、「おいで」と言わんばかりに奥様の目を見つめて、席にエスコートするように腰にそっと手を添えている――。

なんて、スマート!
なんて、優しげ。
まるで、 騎士(ナイト)、王子!!

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