雪降る夜はあなたに会いたい 【下】

読者さんの私に向ける視線は、間違いなく私に何かを期待している視線だ。

了解です。お任せください――!

それに指で応えた。

すべては、飲まなきゃ始まらない。私も、皆も、飲ませて酔わせて、話はそこからだ。

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 最初は硬かった皆の態度も、少しずつ、くだけてきた。もちろん、私もだ!

「じょ、じょ――」
「あ、あのっ!」

私が思い切って常務に声をかけたその声を、古舘さんに遮られた。

「お、奥様! ゾウ、気に入ってもらえたとのこと、僕も嬉しいです!」

あの、例の土産物話?

「え……、え? あの、像を買ってきてくださった……?」

奥様が目をパチクリとして、身体を古舘さんの方に向けた。

「はい! 僕が!」

その必要以上にはきはきとした古館さんの答えに、奥様が今度は隣にいる常務に視線を移す。

「創介さん! この場に来てくださってること、最初に私に伝えてください!」
「あ、ああ、そうだな……」

常務が視線を泳がせる。

常務が怒られている――!!

レアなシーンに居合わせたことを感謝する。

「すみません、お礼が遅くなりまして。本当にありがとうございました。あのゾウ、大好きなんです」
「い、いえ。常務から、多大なお礼をしていただき、むしろ恐縮しているところですから」

常務の奥様に頭を下げさせる結果になり、古舘さんがあたふたしている。

「お、奥様! 今回、社内の広報誌に榊常務をとりあげさせてもらって、その打ち上げも兼ねているのですが、その広報誌はご覧になりましたか?」

古舘さんを救うべく、私がそう切り出した。

「いえ、私は拝見していませんが……」
「見たくないですか?」

身を乗り出し奥様にニヤリとする。

「見たいです! 見たい!」

ほんのり頬を染めた奥様が目を輝かせた。

「ちょ、ちょっと待て――」

焦りだした常務を堰き止め、私は広報誌を差し出した。

「どうぞ! 差し上げます!」
「本当ですか? ありがとうございます――」

かわゆい~。そのくしゃっとした笑顔、超可愛いんですけどぉ~。

「雪野、それは特に目を通さなくても問題ないぞ。ほら、俺に渡せ」

常務が必死に奥様に言う。

「……私は、見ない方がいい?」

可愛い笑顔が寂しそうな表情に変わる。

「私も見たいなって、思ったんだけど……」
「あ、いや、まあ、見られて困るというものでもないが、いや、でも――」

奥様の落ち込んだ様子に常務が弱り出す。やはり、奥様の悲しい表情には弱いらしい。

「いいじゃないですか! 奥様きっとお喜びになりますよ! 常務は黙っていてください! どうぞ、奥様、存分にご覧になってください」

え――!?

あの、お堅い神原さんが声を張り上げている。
それも、常務に対して、そんな態度……。

あれは、間違いなく、酔っている。

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