雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「――あれ、今日は迎えの車はないんですか?」
俺を見送るためにエントランスまで付いて来た雪野が、不思議そうに俺を見上げる。
「あ、ああ。今日は、土曜日だしな。迎えはいらないと言ったんだ」
「でも……先週もその前の土曜日も、お迎えに来ていたような……」
「それはだな、そう、ここのところずっと土曜に出勤させていたから、今日は休ませようと思ったんだ」
慌てて、言葉を繋いだ。
「そうなんですか。じゃあ、いってらっしゃい」
不思議そうにしていた表情にすぐに笑が浮かぶ。
この日、雪野の行動を見届けるために、迎えの車は断っておいたのだ。
これから自分がしようとしていることに胸がひりつくほどの罪悪感を感じるけれど、許してくれとまたも心の中で雪野に謝る。
「行って来る」
どうしたってこの声も表情も硬くなる。
今日、雪野は一体誰に会うつもりなのか――。
雪野に背を向け、歩き出すと同時に大きく息を吐く。無意識のうちに自分の胸を撫でていた。
大丈夫だ。
絶対に大丈夫。
俺は雪野を信じている。
ただ一目確認するだけ。その相手に何の問題もなければ、ただの取り越し苦労になるだけだ。それでいい。そうなるに決まっている。
でも、もし雪野が男と会っていたら……。
その場で、雪野に問い質す。
そして、無理矢理にでも連れ戻す――。
そう心を奮い立たせる。
少し歩いたところで足を止め、慎重に振り返る。エントランスにはもう雪野の姿はなかった。
雪野が、俺が仕事に行っている間に誰かに会おうとしているのはあの電話で分かった。
だから、仕事に行くふりをしてここで様子をうかがうことにしたのだ。
俺が家を出て、そう時間を置かずに雪野も出掛けるはずだ。
こうしている間も、ずっと胸の中には嫌な重荷がのしかかる。
ただ、一目確認できればそれでいい。
ちょうどエントランスから死角になる場所に身を潜める。ここから離れているエントランスに視線を向ける。
雪野が出て来るのを待っているのに、まったく落ち着かない。
もう、こんなこと、やめてしまおうか。
どう考えても、いいことじゃない。
雪野に後ろめたくなるようなことを、するべきじゃない――。
そう思って、ここから離れようとした時だった。
どれほどの時間が経っただろうか。時間の感覚さえもなくなっている。雪野がエントランスに現れた。