雪降る夜はあなたに会いたい 【下】


雪野――。

心拍数が急激に上がる。嫌な汗も流れて来る。

 雪野が周囲を見回している。

まさか、ここに誰かが来るのか――。

どうか、男ではないように。

鞄を握りしめる手に力が入る。

あ――。

心臓が止まる。

 エントランスに立つ雪野の前に、一人の男が現れた。その男に――雪野が笑顔を向けた。

男……だった。

その場で崩れ落ちそうになる自分を、寸でのところで支える。

男、男、男――。

この目に映るものが現実なのか、夢なのか。

誰か、夢だと言ってくれ――っ!

後姿しか分からない。でも、その男が若い男だということは分かる。ジーンズにチェックのシャツを羽織った、若い男――。

雪野が親し気な笑みを浮かべて、その男と寄りそう。そして、二人して並んで地下駐車場の方へと歩き出した。

二人で、車に乗るのか?

二人で、密会……。

密会して、そして――?

勝手に膨れ上がる映像に、身体が引き裂かれそうになる。

 気付けば走り出していた。

ダメだ、雪野。お願いだ、雪野。

「雪野、待ってくれ――っ!」

二人並んだ背中に駆け寄り、悲しいほどに悲壮感に満ちた声を張り上げていた。

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