雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
結局、それから母はその話には触れて来なかった。
あまり深く考えていないのか。もしくは、その話題を意識的に避けているのか。
その話をしようとすると、すぐに私の前からいなくなってしまう。本当は、もう少しちゃんと話をしておきたかった。
そんな状況のまま、創介さんが我が家に来る日曜日になった。優太もどこか落ち着かない様子で。母は何かを心に決めたのか、厳しい表情をしていた。
約束の時間に、団地の建物の外まで創介さんを迎えに行く。
「待たせたか?」
「いえ、全然。時間ぴったりです」
早くもなく遅くもない時間に創介さんは現れた。
落ち着いた色合いのネイビーのスーツに同系色のネクタイをして、年相応の雰囲気を醸し出している。いつもは、年齢よりも上に感じるから、その変化に気づいた。手には、どこかのお店の紙袋を持っている。
「じゃあ、行こうか――」
「あの……っ」
ぴんと伸びた背中に、咄嗟に声を掛けた。
「ん?」
創介さんが振り返る。創介さんに近付き、そっと腕に触れた。
「私も隣にいるので、だから――」
「俺のこと心配してくれてるのか? 緊張してるのが、ばれてたか……」
そう言って笑う。
「緊張しているようには全然見えないです」
「いや、人生で一、二を争うほどに緊張してる。結局、おまえの家に来る時は緊張するってことだな」
創介さんでも、緊張したりするんだ――。
そんなことを思って、その顔を見上げた。確かに、いつもと違うかもしれない。
「とにかく、誠心誠意話をしようと思ってるから」
私の手のひらを一度ぎゅっと握ってくれた。その力強さと温かさが伝わって来る。そして、その手は離れて行った。
「――行こう」
創介さんが自分に言い聞かせるように、スーツの襟を正した。