雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「よろしくお願いします」
真正面に座る奥様が、勢いよく頭を下げた。
「こちらこそ、よろしくお願い致します」
事前に準備していた、本社と丸菱テクノロジー両方の役員の面々のプロフィール、奥様方の情報をまとめた資料を差し出す。
「――榊常務の場合、間違いなく本社の役員と同等のお立場になります。ですから、おそらく奥様にも、本社役員の奥様方のお集まりにもお声が掛けられると思われます」
「……そうですよね。分かりました」
緊張した面持ちで、資料を見つめている。
「会合は、三か月に一度程度。現在は、本社の栗林専務の奥様が取り仕切っていらっしゃいます。ですので、事前に栗林専務の奥様にご挨拶しておかれるのが賢明かと」
「栗林専務の奥様……ですね。分かりました」
私の説明を熱心に聞き、時おりメモを取っている。その様子を、私はどこか冷めた気持ちで見つめていた。
そんな腰の低い態度でいながら、結局は榊常務のような人を射止めたのだ。何一つ計算していなかったなんてあり得ない。
泣き落とし? 無欲のふり――?
どんな手を使ったのかは分からない。
それにしても、どうして……。
「私が、特別何か積極的に動くべきことってあるんでしょうか。せめて、夫に恥をかかせるようなことはしたくないので。もう、最初は本当にそれで精一杯だと思うんですが」
目尻を下げて、はにかんだように奥様がそう零した。
その微笑みが、私の胸を刺激する。じくじくと、嫌な苦みが込み合げて来る。
「――でしたら、もう少しお召し物にお気を使われた方がよいかと思います」
「……え?」
そのはにかんだ微笑みが、そのまま固まる。