雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
それから二週間ほど経った日、常務の奥様が社に来られた。
「お忙しいところ、お時間割いていただいてありがとうございます。よろしくお願いします」
にこにこと挨拶をする奥様に、どうしても硬い態度を取ってしまう。
もちろん、他人に気付かれるようなあからさまなことはしない。それに、ここは常務室だ。榊常務も見ている。
常務室に置かれた皮張りのソファに、奥様と向き合って座る。奥様の隣には、榊常務が座られていた。
決して、私の複雑な感情など少しも出してはならない。
「――雪野、神原は本社でもずっと役員たちと接して来た秘書だ。分からないことがあったらなんでも聞くといい。奥様方のことまでは、俺は知らないからな」
「はい。そうさせていただきます」
それにしても――。
なんて、榊常務の隣に似つかわしくない人なのだろう。
華もなければ、オーラもない。
ただでさえ榊常務は、そのたたずまいだけで人を圧倒する。だから余計に不釣合いで。
見た目にも分かる、特に高級品とも思えないカーディガンに白いシャツ。可もなく不可もない無地のスカートを合わせた姿。
これが、あの榊家の嫁――?
――プルルルルル。
「お電話――」
榊常務のデスクの上にある電話が鳴り、私が立ち上がろうとするとそれを制止するように常務が立ち上がった。
「電話は俺が取る」
そう言うと、常務は自分のデスクへと向かわれた。
「――社長が? はい。これからですか――」
呼び出しの電話だろうか。
「分かりました。これから伺います」
受話器を置いた常務がこちらを向く。
「どちらからか、お呼び出しでしょうか」
「何故か、父がこっちの社長室に来ているみたいだ。少し顔を出してくる。少し席を外すから、雪野のことを頼む」
「――はい」
どうしても心は重くなる。
常務が奥様に視線を向け、「俺が戻るまで、神原からいろいろ聞いておいてくれ」と言うと、すぐに出て行ってしまった。
私と奥様二人が常務室に残された。