主従夫婦~僕の愛する花嫁様~
「━━━━あ、甲斐です。
そちらのアドレスに送るドレスに合う羽織物を、いくつかピックアップしてほしい。
今から向かうから。
言わなくてもわかってると思うが、紅葉様の肌に負担にならず、エレガントで、可愛らしく、尚且つ露出も控え目なモノだ。
━━━━━あぁ。あぁ、そうだな。よろしく」

「………」
亞嵐は、雲英の電話をボーッと聞いていた。

雲英は電話を切ると、ドレスの写真を色んな角度から細かく撮り、店にメールを送った。
そして亞嵐に向き直る。

「亞嵐、出ていけ。
俺は今からバタバタだ」

「あ、あぁ。
つか、ほんと…雲英って……」

「は?」

「いや…」

外出の準備をする雲英を見ながら“ほんっと、お嬢様のことしか考えてねぇんだな(笑)”と心の中で突っ込んでいた。



一緒に家を出て、エレベーターに乗り込む。

「━━━━雲英ってさ」
「何だ?」

「ずっと、スーツ姿なの?」

「は?」

「今日来て、びっくりした。
まさか、スーツ姿でいるなんてな……!
結婚したから、さすがにラフな格好なんだと思ってた」

「………」

「雲英?」

「気を引き締めるためだ」

「え?」

「気を引き締めないと、欲が爆発するんだ。
本能のまま、紅葉様を求めてしまう。
…………そんなの、ただの獣だろ?
そんなことになったら、紅葉様に嫌われる。
ずっと……夢見てたんだ。
紅葉様の夫になること。
独り占めできる権利。
それを失いたくないから、スーツを着てお世話することで自分を保ってる」

「へぇー、大変だな(笑)」

「大変だが、嫌じゃない。
この22年……ずっと傍にいても、触れることが許されなかっただろ?
恋人になれても、気安く触れなかった。
“嫌われたら”って考えて、どうしても思うようにはできなかったんだ。
漸くなんだ。
結婚できたから、やっと……許されるんじゃないかって思えるようになれた。
だから今での22年間を思えば、スーツでいることなんか全く苦じゃない!」

「そっか!
幸せなんだな、お前」

「あぁ、幸せだ……!」


「━━━━━━あ!そうだ!」
一階のエントランスに着き、エレベーターを出る寸前。
思い出しように言った、亞嵐。

「ん?」

澪雨(れいあ)に会ったぞ!」

「は?」

「あいつ、まだフラフラしてるみたいだぞ?」
「興味ない」


「フフ…だよなぁ……(笑)」

亞嵐はため息をつき、肩をすくめ苦笑いをしエレベーターを出た。
< 12 / 99 >

この作品をシェア

pagetop