主従夫婦~僕の愛する花嫁様~
「え?」

「あまり、そんなこと言ったことがないから。
実家で、私がお勉強してた時“邪魔になるから”って、誰も通さないようにしてたでしょ?
もちろん甲斐も“ここにいていいか”なんて、言ったことない」

「あ、いや…それはその……」

キュッと椅子を引く音がして、紅葉が立ち上がる。
はっきりしない雲英に、ゆっくり近づいた。

雲英を見上げ、頬に触れ「聞かせて?」と言った。


「……………離れた…く…なくて…」

「え?」

「紅葉様とは、常に一緒にいたいんです。
ご実家でも、本音は……例えお勉強中でもお傍にいたいと思っておりました。
でも紅葉様は、僕のご主人様。
一使用人の僕が、そんなワガママ言えるわけがない。
でも今は━━━━━━」

「いいよ!」
雲英の言葉を遮るように、紅葉は微笑み頷いた。

「え?」

「いいよ!
あ!だったら、リビングでお仕事する!
それなら甲斐は、ソファに座って寛げるでしょ?」

紅葉はノートパソコンを一度閉じ、抱きかかえるようにして部屋を出た。
「甲斐、行こ?」

「はい!!」

雲英は、心底嬉しそうに笑った。


ソファの下のカーペットの上に座り、パソコンを操作している紅葉。
雲英は紅葉を足で挟むようにソファに腰掛け、ひたすら紅葉を見つめていた。

ただ、それだけのことが……雲英にとっての幸福。


しかし━━━━━

(ヤバい…触れたい……)

どうしても、欲が出てしまう。

雲英は無意識に紅葉の頭に触れ、髪の毛を一房取った。
そして、その髪の毛にキスを落とした。

反応しない、紅葉。

(よし!これくらいなら、大丈夫ってことだよな?)

味を占めた甲斐は、何度も紅葉の髪の毛で遊びだす。

(キス、したいな…
さすがにダメだよな?
………………
………でも、したい…)

雲英は、一度ソファを立ち上がった。
そして紅葉の隣に、紅葉に向き直るように座った。

(耳なら…いや、紅葉様は耳弱いもんな。
頬ならいいか!)

おもいきって、頬にチュッとキスをした。

「ひゃっ!!?か、甲斐!?」
ビクッと驚いて、雲英に向き直る紅葉。

「可愛い…/////」

「甲斐!」

「あ、は、はい!」
(フフ…紅葉様と目が合った!)

「髪の毛は構わないけど、キスはダメ!」
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