主従夫婦~僕の愛する花嫁様~

【留守番】

ある夏の朝。
雲英・紅葉の自宅マンション。
玄関にて。

雲英が、紅葉に言い聞かせていた。

「━━━━いいですか。
キッチンへは、冷蔵庫からお飲み物を取る時以外には、入らないでくださいね!
IHや包丁に触れるなんて、もっての外ですからね!」

「わかった」

「昼食は、12時に更井叔母が温かいお弁当を届けてくれます。
温める必要もないので、電子レンジにも触れないように。
お箸などは、トレーに準備してますからね!」

「うん」

「甘いものは、冷蔵庫にフルーツゼリーがあります。
夕飯までには帰るので、それまでは温かいお飲み物は我慢してください」

「うん」

「今日はお仕事もお休みですし、できる限りお外には出ないようにしてください」

「うん。一人でお出掛けは好きじゃないから、大丈夫だよ。
…………ねぇ…甲斐」

「はい」

「もう大丈夫だから、行って?
遅れちゃうよ?」

「そうですね。
━━━━━はい、紅葉様」
雲英が、小指を出す。

「え?」

「指切りです。
僕と約束してください!」

「うん、わかった」
雲英の長い小指に、自身の小指を絡める。
するとキュッと小指をしめて、雲英はその紅葉の小指に小さくキスをした。

「では、行って参ります」
「うん、行ってらっしゃい!」

手を振る紅葉に丁寧に頭を下げ、出ていった雲英。
ガチャンとドアが閉まり、紅葉は息を吐いた。

「凄かったなぁ…朝から……(笑)」

甲斐一族の中で“完璧”と言われる、雲英の執事としての仕事ぶり。

主人に完璧に尽くし、サポートする。

そのため、紅葉の父親に付いて時々執事としての仕事を頼まれることがある。

いつもは平日なので、紅葉が仕事中だ。
しかしたまに、今日のように土日に頼まれることがあるのだ。

今回は結婚してから初めての、雲英の頼まれ執事。

もちろん家に紅葉が一人なるのも、今日が初めて。

なので雲英は、まるで我が子に言い聞かせるように紅葉に言ったのだった。


「とりあえず、飲み物を……」
冷蔵庫を開ける。

「ん?」

【紅葉様へ。
こちらのミネラルウォーターか、紅茶、烏龍茶をお飲みください。
あとミルクピッチャーにクリームを、お皿にレモンをご用意しておりますので、そちらもお使いください。
あと、氷は入れないようにしてください。
身体を冷やしてしまいますので】

雲英の手紙が、飲み物に添えて置かれていた。
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