悪役令嬢はクールな魔道師に弟子入り致します
 「セシル。こいつはわがままで高慢だぞ。こんな女がいいのか?もっといい女を紹介してやる」

 「いえ。結構です。魔導師の世界は特殊ですし、薬草の知識も必要不可欠。それを知っている彼女は使いやすい上にやる気がある。そのほうがいいのです」

 「……わかった。お前が言うのならそうしよう。リリアーナ・フォン・スツール。お前の身分は近日中に庶民となるだろう。そうなったらすぐにセシルの元へ行け」

 「いいえ。今からすぐにセシル様のところで働きます。いいですよね?」

 セシルをじっと見つめて聞いた。
 するとフードの中で笑ったように見えた。

 「はい、もちろん。構いませんよ」

 王太子は驚いていたが、勝手にしろと手を振った。そして、メラニーの方を向いて、極上の笑みを浮かべた。

 「メラニー。安心しろ。君がこれからは婚約者だ。今日にもお父上に婚約の申し出をしよう」

 「まあ、オスカー様。嬉しい」

 そう言って、彼女は王太子の腕を取り、こちらをじろりと見てニヤリと笑った。

 あら、あら。ヒロインなのにこんな笑い方するのね。ゲームっていいとこ取りだから、本質が見えない。ま、いいか。

 私は彼女を完全無視して、セシルに向き直った。

 「さあ、どこへ行けばいいのかしら、セシル」

 フードの中の眼が光り、彼がマントで私の身体を包んだ。すると、二人の気配は忽然と消えたのだった。
 
 だが、皆の記憶には消えたその場面が残ることはなかった。
 
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