失恋タッグ
「秋月先輩、今日は僕の奢りなので好きなものを食べていいですよ」

会社から少し離れたお洒落なダイニングカフェに連れてこられた私は、
向かいの席で楽しそうにメニューを選んでいる朝比奈君に呆れて息を吐いた。


ここへ来るまでの間、「話なら今度にして」と言ってなんとか逃げようとしたのだ。

なにせ、失恋したばかりで、後輩の話など聞く気になれるはずもない。

しかし、強引な朝比奈君に「僕、待つの嫌いなんです」と連れてこられたのだ。

私は諦めてメニュー表を開くと、適当に目についた和風ハンバーグのサラダセットを選んだ。

本当は食欲はないのだけれど、私がメニューを選ぶのを向かいの席の朝比奈くんから圧を掛けるように見つめられて、仕方なくそれにした。

朝比奈君はというと、昼間だと言うのにまだ若いからなのか、がっつりステーキセットを選んでいる。
しかも、ご飯は大盛りでその細い体のどこに
入るのだろうと不思議に思う。

春先の店の中は暖房が高めに設定されていて少し暑かった。
朝比奈君はステーキが目の前に運ばれると上着を脱いで隣の椅子にそれを掛けた。

しかし、スーツの上着を脱いだ彼は、細身だと思っていたが、可愛い顔をしているにも関わらず、意外にガッチリしていた。
しかも、ステーキをナイフで切るたびに腕まくりをしたワイシャツの袖からは、その顔に似つかわしくない男らしい腕の筋が見えて思わず見惚れてしまっていた。
< 17 / 108 >

この作品をシェア

pagetop