失恋タッグ
「その柚葉嬢ってのやめてよ。栞奈でしょ?その呼び名広めてんの?
最近、重役まで柚葉嬢って呼んでくるから、面倒くさいんだけどっ」 

さっきまで隣に居座っていた常務も事あるごとに“柚葉嬢、柚葉嬢”と
ネタのように連呼していたのだ。なんだかそう呼ばれると、自分がホステスにでもなったかのように思えてくる。


「ちょっとー、濡れ衣もいいとこよ。
その呼び名広めてんの、新入社員の男の子たちだから。柚葉、美人で仕事もできるから、若手の子達から崇めてられてるみたいよ」

「怖がられてるの間違いじゃない?
仕事で話しかけてもかなり恐縮されてるし」

栞奈は私の言葉に「分かってないなぁ」と、大袈裟にため息を吐いた。

「なにが分かってないのよ」

そう言って、膨れ面でグラスを傾ける柚葉は、長い艶々のアッシュブラウンの髪の毛に、透明感のある白い肌。伏し目がちにグラスを見つめる色素の薄いヘーゼル色の瞳の横には、小さい二つの泣きほくろが控えめに覗いて、何とも言えない色気を醸し出しているのだ。そんな柚葉に女性の栞奈でさえ見惚れてしまうほどだった。

「でも、まあ柚葉嬢には倉木がいるから誰も手が出せないでしょうね。だけど、あちらは彼女がいるにもかかわらず人気よね」

栞奈は他部署の女の子たちに囲まれてる倉木快斗(くらきかいと)を見て「あんた、あんな女の子に囲まれてんのに焼き餅焼かないの?」と、枝豆を摘みながら聞いてきた。


私は「ん~」と誤魔化すように相槌を打ってビールを煽った。

快斗に目を向けると女の子たちに囲まれて、困ったように笑いながらビールを飲んでいた。

同期の快斗とは、3年前から付き合っている。快斗は爽やかを絵に描いたような人物で人当たりもよいから、女の子達からの人気はあつい。

しかも、今回、私と一緒に手掛けた商品がヒットして会社の功労賞を受賞したことで、給料とボーナスがアップすることで、さらに人気が上がったのだ。
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